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[SF小説]人工世界 ‐ The artificial world ‐ 6

h2000は旧型歩兵ロボットだ。体をかがめてはいるが、それでも2メートルくらいある。やっぱりh2100を通して見るよりも大きい。と、銀色の機体を見上げながら思った。
「ちょっ! レン!」
急に腕を引かれ、僕は階段の下に引き戻された。正確に言うとかなりの強さで引っ張られたため階段の上の虚空に飛び出し、なんとか体勢を立て直したが後ろ向きで秘密基地の扉に肘からぶつかった。
「なにすんだよ......」
ぐわぁぁんと響く扉の音よりはるかに小さい声を絞り出すだけで精一杯だった。右肘から小指までがとてつもなく痺れている。僕が空中にいる間、ハルトは今までに見たことがない程の慌てっぷりでシャッターに飛びつき、そして下ろした。
「なんでh2000がこんな......」
ハルトが言い終わる前にカシャン! と軽い音をたててシャッターが横に裂かれ、一瞬の沈黙の後にガシャン、と音を立てて地面に落ちた。同時に、ハルトがシャッターをつかんでいた左手の肘から先が切り落とされていた。h2000の鋭い爪がシャッターを薄いティッシュペーパーのように切り裂き、ハルトの左腕はそれに巻き込まれたのだった。
「うわぁぁあ......」
あまりの出来事に、僕はパニックになった。しかし身体は全く動かなかった。ハルトは痛みのせいか冷静だった。シャツで腕の断面を押さえながら階段を1段ずつ降りてくる。
「レン! ドアを開けろ!」
ハルトの声で身体が動き方を思い出し、僕はドアノブに飛びついた。痺れる手で扉をこじ開けると、そのまま中に転がり込んだ。
「奥の部屋に入ってくれ!」
「奥?」
さっきは気付かなかったが、モニターの横に扉がある。開けようとして駆け寄ると、後ろの扉からハルトが転がり込んできた。一瞬遅れてh2000が扉にぶつかった。正確には幅が広すぎて、扉の枠にぶつかっていた。コンクリートの壁は簡単には壊せないようで、中には中々入ってこない。
「ハルト急いで!」
「レン早く入れ!」
言われるがままに奥の部屋に入った。手前の部屋と同じくらいの広さで、部屋の大部分をトンネルのような機械が占めていた。
「1人ずつしか通れないから、レンが先に」
トンネルのような機械の真ん中に、人が1人寝られるような台がある。
「俺はすぐに追いかけるから。向こうについたらすぐに台から降りてくれ」
僕はハルトに促されるままに台に寝転がった。
「向こうって? そもそもこの機械は何?」
疑問が次々に口をついて出たが、それもハルトがスイッチを入れるまでであった。僕は巨大な装置の中にいた。予め何の音か知らなければ、身の危険を感じてパニックになるようなモーター音に距離を詰められながら。巻き込まれたら腕が飛ぶような回転数。ここ何年もなかった強い期待に懐かしさを覚え、同時に自分の身に起きることへの不安がゆっくりと、しかし確実に、大きくなるのを感じながら。

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