[SF小説]人工世界 ‐ The artificial world ‐ 4
「そっち座って」
ハルトはさっさと定位置のゲーミングソファに着いた。僕も促されるままに席に着く。ヘッドセットをつけながらコントローラーの電源を入れる。急なんだけどなんというか、いつもやっているかのように、ダイブした。
おそらく輸送トラックの中だろう。人型のロボットが白い箱型の空間に詰め込まれている。数は9体。その中でこちらに手を振る個体がいる。ハルトだ。
「ここは?」
声に出すが目の前の箱型の空間では響かない。「そうか」
自分を入れるとロボットは10体だ。何度ダイブしても映像のリアルさには慣れない。遠くの現実世界で声が虚しく響く。家でダイブしているときと響きが違うからか、どこかシュールだ。
「輸送用トラックだ。あと3分で目標と接触する」
ハルトの声が耳元で聞こえる。同時に遠くの現実世界でも声が小さく響く。ヘッドセットのマイクからはハルトと直接ボイスチャットするようになっていて、ロボットからは声が出ないらしい。最近ゲームで主流のリアルサウンドスケープシステムとは違ってリアリティが減るが、作戦が伝わらないようになっている。さすが実戦用というところか。
「目標は?」
「敵輸送部隊の殲滅クエストだ」
「簡単な方だね」
「そう。捕獲と防衛にくらべたらな」
単純にキルするよりも、キルしないように手加減したり、防衛対象を傷付けないようにするほうがよっぽど難しい。それはゲームと同じか。というか、ほぼゲームだよね。やってることはロボットを操作して戦うことなのだから。
「目標は輸送車5台。砂漠地帯の敵拠点に歩兵ロボットh2000を輸送してる。1台につき10体、全部で50体だ。こっちの歩兵ロボットh2100の旧型で、耐久性がない。まずは輸送車のエンジンを狙って足止めする。それから頭部を狙って破壊する。できるな?」
「まぁいつもやってる通りならね」
1人5キルなら問題ないはずだけど。
「こいつらは強いの?」
それができないと問題だ。
「強いよ。俺の動きを学習してるからな」
なるほどね。技術の粋を集めたって感じだ。まぁ戦争ってそういうもんか。
「本当に同じになってるな」
手足の動かし方、頭の回転角度と視点の移動角度。どれも戦場の風Ⅲと同じ設定だ。
「じゃないとすぐできないだろ? 俺が頼んでやってもらったんだ。言ってる間に着いたぞ。出撃だ」
輸送トラックの後部の扉が開き、h2100が一斉に飛び出した。僕もそれに続いて外に出る。
「早すぎでしょ」
既にh2100が敵輸送車に突っ込んでおり、5台とも下部のエンジンにレーザーライフルが向けられている。どれかがハルトのはずだ。
「撃て!」
ハルトの声で一斉に引金が引かれた。エンジンが爆発し、輸送車が火に包まれる。まもなく全車両が停車した。
「来るぞ!」
炎の中で敵の輸送していた歩兵ロボットが立ちあがろうとしている。h2000だ。h2100は素早く接近し、h2000の首にレーザーライフルを撃ち込み絶命させていく。
「本当にハルトの動きそっくりだ」
僕もそこに参加する。体に火が当たっているが、温度覚は外気温として表示されるだけなので熱くない。もちろん耐熱処理がしてあるので、短時間なら内部温度は上がらない。
h2000に接近し、腕を掴み、首にレーザーライフルを当てる。引金を引くとバチッと大きな音がしてh2000が崩れた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?