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[SF小説]人工世界 ‐ The artificial world ‐ 9

真っさらな緑の平原と雲一つない空がどこまでも続く。地平線は直線であり、ここが現実世界ではないということを物語っていた。
「プレイヤーはh2100か」
僕はh2100で、同じくh2100と対峙していた。メイだ。
「レンさん、聞こえますか?」
メイから無線が入った。
「聞こえます」
「良かったです。これより訓練を始めます。訓練とは言いましたが試験のようなものでもあります。レンさんの実力を確かめる必要がありますので。まずは一対一です」
メイが動いた。一直線にこちらに向かってくる。メイはまともに戦えるのだろうか。たしか転送装置のある施設の施設長だよね? そんなことを考えていたが、心配は無用であった。
「……強いな」
思わず感心してしまった。両手のガードを踏み込んで放った2発の拳撃で崩し、右足を軸に左へ回り込んでビームライフルで的確に首のつなぎ目を狙ってくる。しかしこちらの方が一枚上手だった。瞬時に屈むことでビームライフルを躱し、両足に力を込めて飛び上がる。攻撃を躱されて前へとバランスを崩したメイの顎に、下から頭突きを食らわせた。予想外のタイミングで視界の外から攻撃を食らったメイは後ろにのけ反って宙を舞い、コントロールを失っていた。首のつなぎ目に狙いを定め、メイが後頭部から着地すると同時にビームライフルの引金を引く……とその時、後ろから接近する複数の羽音が聞こえた。前方に飛びだして距離を取った。引金を引き終わる前に動いたため、当然ビームライフルの狙いは外れてしまった。前転しながら回避し振り返るとそこには……
「ドローン!?」
3体のドローンがこちらを威嚇するように滞空している。
「さすが、ハルトさんが見込んだだけのことはありますね。一対一でも強いですし、ドローンの予想外の接近にも気付けるなんて。でもこれならどうでしょう」
メイが傀儡師のように両手を上げると、メイの後ろからドローン20体程が現れた。メイが両手を前へ向けると一斉にこちらへ向かってくる。ドローンなど手で払ってしまえばなんの問題もないのだが……
「やっぱりか」
全てのドローンに爆弾のようなものが取り付けられている。爆弾はh2100の頭を吹き飛ばすには十分だが、隣のドローンを落とす程の威力はない。目標破壊に必要な最低限の威力というわけだ。ドローン一つを破壊したら連鎖的に誘爆していくような間抜けな作りにはなっていないので、ビームライフルで一体ずつ確実に落としていくしかない。ドローンはすばしっこいので狙いがつけにくいが、集中して狙えば問題なく落とせる。
「……!」
ドローンを囮に使い、回り込んだメイが背後から近付いてきた。奇襲を仕掛けるつもりだ。もちろん足音で気づかれているわけだが。ドローンと挟み撃ちにするつもりだろうがそうはいかない。体当たりを屈んで躱し、タイミングよく立ち上がることでメイを投げ飛ばした。ドローン達は突っ込んで来るメイを魚の群れのように形を変えて躱そうとしたが避けきれなかった。メイはドローンに次々に衝突し、爆発した。

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