[SF小説]人工世界 ‐ The artificial world ‐ 3
完全に秘密基地だ。しかもかなりクオリティが高い。完璧なゲーム環境が揃っている。
「ハルト......これはどういうこと......?」
「俺さ、前に戦場の風Ⅲの大会で優勝したよな?」
戦場の風ⅢはVRヘッドセットを付けて対戦する完全没入型戦場アクションゲームだ。
「僕のチームは2位だったやつね」
「そうそれ! そこで優勝しちまったもんだから目をつけられたのよ。そして今雇われて、こんな基地を使わせてもらってる」
「本当に! ハルトもついにプロゲーマーか......こんな部屋まで用意されてすごいね。え、スポンサーはどこなの?」
「聞いて驚くなよ」
「うん」
「国だよ」
「そんなことある!? じゃあ国代表で国際大会にでるってこと?」
「いやそういうことでもないんだ」
たしかに国代表に選ばれたのなら、もっとニュースになるはずだ。というかどうも言い方がはっきりしない。
「ハルト。じゃあどういうこと? はっきり言ってよ」
「わかったわかった、ちゃんと言うよ。その代わり、誰にも言わないって約束できるか?」
「そりゃもちろん。誰にも言わない」
「よし。それなら言える。俺は国に雇われた。無人兵器部隊の操縦者としてだ。そしてここは俺のための遠隔基地だ」
なるほど、たしかにVR戦争ゲームの大会優勝者なら無人兵器の操縦も上手そうだ。でも学生を雇うなんて、よっぽど人手が足りないのだろうか。
「既に軍人として所属しているやつを鍛えるには時間がかかるし、そもそもあいつらは体の頑丈さで選ばれて入隊してるからeスポーツなんかには縁がない。普通に広告を出しても良いんだろうけどうちは非戦を謳ってる国だから批判がでる。結局こうやって集めるのが一番良いらしい」
「そうなのかぁ。もうそんな所まで技術が発展してるんだね」
「そりゃあそうだろ。もう人手のいる仕事はほとんどロボットに置き換わってるんだから」
たしかにな。技術はかなり進歩している。保育や介護だってロボットがやってるんだ。でもそれなら、戦争だってロボットだけでできるんじゃないか?
「ハルトさ。1つ聞いていい?」
「うん、なに?」
「なんで操縦者が要るの? そんなに技術が発達してたら戦争だってロボットだけでできるよね?」
「それは最初俺も気になってた。でもロボットだけで戦争はできないらしい。自律型致死兵器システムは、国連の会議で禁止されてるんだ」
「自律型致死兵器システムって?」
「要するに自分で攻撃目標を決めることができるロボットってこと。人間でさえ敵味方の区別が難しいことが多いのに、それをロボットにさせるのは危ないだろ? ちょっと間違えたら無差別殺人ロボットの出来上がりだ」
「なるほどね......ってなにこの音!?」
明らかに緊急そうなサイレンがなり始めた。
「まじか......でも丁度いいや」
「なにが?」
「行くぞ、レン。出撃だ」
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