【取材】食で世界に幸せを 300年の伝統と革新で未来に繋ぐ 食品卸・国分のサステナビリティ(後編)
こんにちは。後編では、国分グループの6つのマテリアリティのうち、人財に関するウェルビーイングや人権への方針や具体的な取り組みについて、中編に引き続き、国分グループ本社株式会社 サステナビリティ推進部の青山 知夫さん、横山 敏貴さん、経営統括本部 仕事における幸福度担当の佐藤 哲也さんにうかがったお話を紹介します。
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
※中編はこちら👇
マテリアリティ6 人財
テーマ① ウェルビーイング推進
――次に、マテリアリティ6「人財」について、教えてください。
佐藤さん:現在、私たちが特に重点を置いて取り組んでいるウェルビーイングに関する活動をご紹介します。
「人財」の目標の二つ目の「ダイバーシティを定着させ、コーポレートガバナンスの保たれた経営体制を構築するとともに、多様な価値観を持つ人材の育成を行う」ことを目指して取り組みを進めています。
私は「経営統括本部課長 仕事における幸福度担当」という役割を拝命しており、リーダー層やサクセッションプランに対応する人々だけではなく、全従業員に対してアプローチを行うのが役割です。全従業員のポジティブな感情や仕事における幸福度の向上が、最終的に組織全体の生産性向上に寄与するという考え方で活動しています。
最も中心となる活動は、自己を探求する機会を提供することです。「自分は何を大切にしているか」「どのように生きたいか」「何に生きがいを感じているか」といった問いに向き合ってもらいます。この考えを深める場として、2021年から「パーパスワークショップ」を実施しています。最初にトップマネジメントとして経営層に対して実施し、その後管理職層にも展開しました。また、一般職層には希望者を募る形で実施してきました。現在では、「サステナビリティレポート2024」発行時点で2350名、2024年8月末時点で2600名以上の従業員の方々が受講しています。
このワークショップでは、ファシリテーターがいて、2人から4人のグループで進行します。当初は外部のファシリテーターに依頼していましたが、社内でファシリテーター認定プログラムを全国で20数名の社員に受講してもらい、現在はその社員がファシリテーターを務めています。
このワークショップでは、まず参加者に自分自身が大切にしている価値観について自己内省をしてもらうワークを行います。その後、当社の企業理念やミッション、ビジョン、バリューをまとめたものである「国分スタンス」についてお話しします。そして、自分が大切にしている価値観と国分スタンスとの重なりを見つける作業を行います。
当社が年に一度実施している幸福度調査の分析結果では、自分の価値観と国分スタンスとの重なりを感じている社員は、仕事における幸福度が高くなる傾向があります。今後も、これを活動の柱として進めていきます。
――ワークショップをやってみた印象はいかがですか。
佐藤さん:受講された方には毎回アンケートを実施していますが、「自分は何を大切にしていたのだろう」といったことに向き合う機会がなかったという声が多く、「普段はそんなことを考えていなかったけれど、考えることができてよかった」という意見が目立ちます。特に30代や40代の方々は、家族やそれに関連するキーワードについて改めて考え、「なぜ働いているのか」ということを実感することができたという声が多くあります。
一方で、若年層の方々は就職活動を通じてそういった自己分析をしっかりと行っているため、若い人ほど言葉が具体的で洗練されている印象があります。
自分の価値観を考えることから離れている方々がこのワークショップを受講すると、次の日から仕事に対する活力が得られると同時に、働き方についても考えながら業務に取り組めるようになっているのではないかと思います。
――先ほど話に出た幸福度調査では、年代や部署によって何か特徴がありましたか?
佐藤さん:カンパニーごとの集団分析を行っていますが、それ以下の部署ごとの細かい分析はしていません。詳細に分析しすぎると、「幸せではない人探し」のようになってしまったり、そのような人がいる組織を特定できてしまう恐れがあるためです。調査結果の傾向については、国分グループには卸売業、製造業、物流会社などがあり、業種ごとの特徴も異なります。また、年齢構成についても、比較的バランスの取れた会社もあれば、少し偏っている会社もあり、それぞれの23社には独自の特徴があります。
私たちの取り組みでは、対症療法的なことはあまり考えていません。幸福度調査は健康診断のようなもので、定期的な観測と位置づけています。「人財」の目標を実現するためには、まず内発的な動機が重要だと考えています。自身の人生でやりたいことを見つけ、会社の理念に共感しながら、仕事において自己実現をする、そんな働き方をしてほしいというアプローチを取っています。そのため、特定の年代に対してワークショップの受講を求めるのではなく、「誰でも参加してください」という手上げのスタイルをとっています。
――このウェルビーイングの取り組みは、サステナビリティの推進にどう繋がるのでしょうか。
佐藤さん:サステナビリティの文脈では「ダイバーシティを実現する」という表現がよく使われますが、私の考えとしては、個人のやりがいや成長したいという気持ちには、人それぞれ異なるアプローチがあると思っています。
例えば、20代の若手から30代の人、お子さんを抱えている方など、それぞれの成長の仕方やアプローチがあります。もし皆が自分の成長を考え、お互いを尊重し合う文化が築けているのであれば、結果的にダイバーシティが実現していると考えています。ひいては人財のサステナビリティに繋がるように各施策を進めています。
――このような取り組みによって生産性が向上する社員の方は多いと思いますが、逆に生産性が下がったり、うまくいかないケースはありますか?
佐藤さん:確かに、そういったケースも少なからずあります。個人の価値観や国分スタンスに向き合った結果、価値観の相違を感じる方が出てくることもあるでしょう。それは避けられないことだと思っています。それを受け入れない場合、「この理念に共感しろ」というコミュニケーションになりかねず、個々のやりがいに向き合うという趣旨とずれてしまうと思います。ましてや、それではダイバーシティにはなりませんよね。
青山さん:実際に価値観に向き合った結果、「私の居場所はここじゃない」と気づいて離職される方もいらっしゃいますが、そのようなことが起こっても仕方ないというスタンスでやっています。
一方で、そうした場で向き合った結果、会社へのロイヤリティが高まったり、別の視点からアプローチした方が良いと気づいて仕事の励みになったり、仕事での人とのつながりを意識できるようになったという良い面が圧倒的に多いと感じています。
当社は営業会社ですので、営業担当など、外に出ていくメンバーに注目が集まりがちですが、この活動では彼らを支えるメンバーにもしっかりとスポットライトを当てています。仕事のつながりを重視し、「あなたがいるからこそ、自分が仕事をできている」ということをクローズアップする取り組みも行っています。こうした活動を通じて、改めて自分の価値や相手の価値を認識し、国分という会社で働く意義を改めて感じられる機会を提供しています。
今まで注目されてこなかった点を取り上げ、改めて議論し、理解を深めることで、自分自身を再評価したり、相手の理解を深めたりする活動につながっていると感じています。
――従業員エンゲージメントを高めることは、生産性の向上だけでなく、創造性の強化やイノベーションの創出にも非常に重要です。生産性とイノベーションの両方を向上させることが、会社を変えていくための大切な要素だと思いますが、そうしたイノベーティブさを高める可能性についてはいかがでしょうか?
佐藤さん:確かにそういう側面があると思います。特に幸福度調査のスコアの中で気にしているのは、「自己実現の強みの発揮」という部分です。この部分が前向きでポジティブな人ほど、仕事における幸福度への影響が大きいです。自己の強みを発揮できる環境や、心理的安全性が確保されている中で素直に考えを表現できる状況が整うと、当然、イノベーションが起こる可能性も高まります。挑戦しやすい環境が整うことで、そういった流れに繋がると思います。
一方で、今後の課題は、仕事における幸福度が高いことと経済価値の創出をどのように結びつけて表現できるかという点です。社員向けなのか、ステークホルダー向けなのかによって伝え方も異なりますが、ここを定量的に結びつけて示すことができれば、ウェルビーイング推進の活動に対して社員全体が納得し、推進しやすくなるのではないかと思っています。
――年代によって考え方やアプローチ方法は異なりますか?
横山さん:ジェネレーションギャップは確かにさまざまなところで見られます。若い世代はそのような働き方は当然といった感覚で入社してくる一方、50代の方々にとっては、かつての昭和時代の営業スタイルが染みついており、急にそのやり方を変えるのは簡単ではありません。そのため、彼らの働き方をどう解放していくかには、さまざまなアプローチが必要です。
また、30代や40代の人たちは、昭和のスタイルに染まった上の世代と新しい考えを持つ若い世代の間に挟まれ、自分の立場に悩むこともあります。ちょうど今の40代あたりからは、男女雇用機会均等法も浸透し、共働きが一般的になり、特に40代前半世代では家事や育児の分担が当たり前となっています。一方、40代後半の世代になると、まだ「共働き」という言葉はあっても実際には浸透しておらず、異なる価値観やギャップが残っているように感じます。
――アセスメントやディスカッション、ワークショップなど、いくつかのプロセスがありますが、その中で何が成功のカギなのでしょうか。それとも、すべてが揃っていないと機能しないものなのでしょうか?
佐藤さん:現在、試行錯誤中ではありますが、ロードマップが描けるのではないかと考えています。
まず、ワークショップで自己の探求を行い、その後、それを1対1で話し合ったり、お互いの強みを引き出す施策が必要だと考えています。この1対1が進んだら、次は隣の部署との連携で、部署の強みを会社全体の強みに変えていくステップです。さらに、私たちはさまざまなステークホルダーとの共創を目指しているので、関係者それぞれの強みを組み合わせて社会価値を生み出していきます。自己対話から始まり、1対1、組織間、そして会社や社会との対話へと進むロードマップをイメージしています。そういう意味で言うと、我々は現段階では、自己対話と1対1の対話の段階にいると思っています。
最終的には、従業員一人ひとりがこのロードマップを意識しながら働くことが理想です。私たちは「循環」という言葉をよく使いますが、個々が幸福感を醸成することが、会社全体の幸福感にもつながり、それがさらに社会の幸福感へと広がっていく、そうした循環が重要だと考えています。この活動を従業員が自分ごととして捉え、活動の起点となることで、最終的に社会価値に繋がるのではないかと期待しています。
これは非常に壮大な取り組みであり、「1年で何かを成し遂げよう」というものではなく、長期的な視点で取り組んでいきたいと思っています。
――従業員が自己内省から始めて、徐々にステークホルダーにまで意識が広がり、自分の存在意義を再確認していくプロセスとなっており、とても興味深いと感じました。
テーマ② 人権
――次に、人権についてはどのように取り組まれており、どのような課題を感じていますか?
横山さん:人権については、現在、方針と体制構築の初期段階にあると考えています。人権の捉え方には、社内向けと社外向けの2つの側面があると思っており、社内向けについては、人事に関わる課題が含まれ、パワハラやセクハラなども含まれます。これらは法律も整備されていますが、佐藤の部署ではそれ以外の取り組みにも注力し、将来的に成果が得られるように動いています。
一方で、社外向けのサプライチェーンに関する取り組みは進んでいないという課題感を持っています。リスク分析や必要なアクションをまとめ、これから人権デュー・ディリジェンスの段階に入り、PDCAサイクルを回していく予定です。今年からは、いよいよサプライチェーンに向けてアンケートを実施し、具体的な取り組みを進める段階までようやく漕ぎ着けました。
青山さん:送るべき取引先はたくさんありますが、私たちも今回初めての取り組みなので、丁寧に進めたいと考えています。まずは、弊社のオリジナル商品を製造していただいている5社に対して、先日説明会を開催し、当社の人権デュー・ディリジェンスに関する考え方をしっかりと説明しました。当社から一方的にお願いするのではなく、「一緒に良くしていきましょう」という姿勢でお願いしています。現在、いくつかの調査にご回答いただいていますが、提出してもらったら終わりではなく、一度ディスカッションの場を設けさせていただきたいと思っています。どのような課題があるのかを伺ったり、逆にその会社の良い事例があれば、それを学ばせていただきたいと思っています。
人権デュー・ディリジェンスのように丁寧に対応しようとすると、何十社も対象に実施するのは難しいため、まずは特にお世話になっている5社を選定し、ディスカッションを通じて、我々の人権に関する考え方やパートナー企業の考え方、さらにはサステナビリティ全般について少しずつ議論を重ね、お互いにこのテーマでより良い形を目指していきたいと考えています。
――サステナビリティについて現場で実際に取り組みを進めるにあたって、コンフリクトが生じることがあると思いますが、その解決策としてどのようなことが有効でしょうか。
青山さん:今のところ、特効薬のような解決策は見つかっていません。サステナビリティ推進部を設立したばかりで、どのように進めていくべきか模索している段階です。
私としては、一方的に情報を発信するのではなく、受け手がどのように感じるかを大切にしたいと考えています。そのため、情報発信では読みやすさを意識し、サステナビリティレポートに社員を登場させたり、社員座談会のページを設けて、自分たちが取り上げられたことを実感できるようにしています。また、各カンパニーの4人の社長による座談会を開催し、文章だけでなく映像も活用するなど、より多くの人に見てもらえるよう努めています。
今後は、各カンパニーのメンバーと直接対話を重ね、サステナビリティを身近に感じてもらえるよう努めていきたいと考えています。そのためには、まず相手の課題感をしっかりと把握し、それを踏まえて従業員に定着させる方法を模索していきたいと思っています。
まとめ
今回は食品卸大手・国分グループのサステナビリティとウェルビーイング推進について、サステナビリティ推進部設立までの経緯や推進体制、6つのマテリアリティのそれぞれの取り組みの内容、ウェルビーイング推進の取り組みについてご紹介しました。その中で、特に重要なポイントとして、以下の3点が示唆されました。
国分グループでは、サステナビリティを事業戦略に統合するために、トップのコミットメントのもと、専任部署を設置し、経営目標に関連するKPIを設定するというセオリーに沿った進め方が実施されていました。
社内への浸透については、一方的にサステナビリティ方針やレポートを作成・発表するだけではなく、読みやすさを重視し、トップメッセージや社員の登場、動画、マンガなど、さまざまな工夫を凝らして伝える努力を続けることで、従業員の主体的なサステナビリティ活動が促進されていました。このアプローチは、多くの企業にとって参考になるのではないでしょうか。
さらに、ウェルビーイング推進の取り組みでは、従業員一人ひとりの自己対話から始まり、1対1の対話、組織間の対話、そして会社や社会との対話へと進むロードマップが示されたことが印象的でした。個々の幸福感の醸成が会社や社会の幸福感へと広がっていく循環を生み出し、従業員の幸せが最終的に社会価値に繋がる未来へと、国分グループがリーダーとして進んでいくことを期待しています。
――青山さん、横山さん、佐藤さん、ありがとうございました!
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