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小売アプリが顧客体験を変える

公益財団法人流通経済研究所
主任研究員 鈴木 雄高


スマホのない生活が想像できますか?

次のうち、あてはまるものはいくつありますか?

  1. スマホなしの生活など考えられない

  2. スマホを家に忘れた日は一日中ソワソワしてしまう

  3. スマホがないと買い物できない

  4. スマホがないと電車に乗れない

  5. 自分はスマホに依存していると思う

どうでしたか?

5つの文は、思いつくままに挙げたもので、包含関係にあるものもありますが、1つも当てはまらなかったという人は少ないと思います。ちなみに、筆者は3つ当てはまりました。

日本でiPhoneが初めて販売されたのは、2008年7月11日のことでした。あれから15年が経った現在、日本に住む多くの人の生活は、スマホなしでは成り立たなくなりました。短い期間で人々の生活を変えてしまったスマホは、まるで『2001年宇宙の旅』のモノリスのようです。

スマホに届く情報、読む・見る情報、無視する情報

スマホを手にした私たちのもとには、日々、様々な情報が届きます。

「SmartNews」には、国際、エンタメ、マーケティング、政治、アニメなどのタブに、パレスチナやウクライナの情勢、有名人の訃報、リテールメディアの動向、政治家をめぐる疑惑、新作アニメの情報など、多様な情報が表示されています。

同様に、「X」(旧Twitter)のTL※1にも、様々な情報が混ざり合って流れていますが、SmartNewsと違うのは、ラーメンを食べたことを伝える友人の投稿や、いつまでも見ていられる猫の動画、おびただしい数の「いいね」が付いているバズった投稿が含まれているところです。

そして、「LINE」を開けば、新着メッセージがたくさん届いてます。学生時代の仲間からの忘年会の連絡、オプチャ※2で盛り上がっているスーパーの話題、コンビニチェーンからフェアのお知らせなどをチェックしても、未読メッセージは大量に残されています。企業が消費者のスマホに直接メッセージを届けるために、多くの人が毎日のように開くLINEを活用するのは有効な手段ですが、他のアカウントのメッセージに埋もれやすく、企業からのメッセージを未読のまま放置している人も多いのではないでしょうか。

普及する小売アプリと広がる企業間の差

一方、スマホに小売企業のアプリを入れている人も少なくありません。流通経済研究所が2023年7月に実施した消費者調査によると、スマホ所持者のうち、小売企業のアプリを利用している人の割合は、業態別に、ドラッグストアが37%、スーパーマーケットが29%、コンビニエンスストアが27%でした。なお、ドラッグストアとスーパーマーケットの利用率は男性よりも女性が、コンビニエンスストアは女性よりも男性が高いという結果でした。

現在では、多くの小売企業が自社アプリをリリースしており、これらの小売企業は消費者と直接つながることが可能です。店舗やECサイト、LINEや各種SNSアカウントだけでなく、自社アプリを活用し、顧客体験価値を向上させるために取り組みを強化する企業も増えてきました。とはいえ、アプリを通じて、優れた顧客体験を提供することは容易ではありません。

先に紹介した調査では、小売企業アプリ利用者の評価を聴取したのですが、企業間でアプリの評価に差があることがわかりました。左下図はコンビニエンスストア、右下図はドラッグストアについて、それぞれ主要なチェーンのアプリの評価を示しています。

注意:グラフ内の文字が小さくて見づらい場合は拡大してください

コンビニエンスストア3社のうち、最もアプリの評価が高いセブン-イレブン、ドラッグストア5社のうち、1位と僅差の2位と評価が高いスギ薬局は、いずれも、アプリを通じて顧客体験の強化を図っていることで知られます。

セブン-イレブンとスギ薬局のアプリ活用と今後の可能性

セブン-イレブンのアプリは、AIを活用して顧客ごとに最適なクーポンを配布しています。また、お気に入り店舗とお気に入り商品を登録する機能もあり、大変便利です。毎週のように新商品が発売されるコンビニならではといえるのが、今週の新商品、来週の新商品と、商品のデイリーランキング、ウイークリーランキングを見る機能です。消費者は、アプリを利用することで、登録したお気に入りの商品を忘れずに買うことができますし(リピート購買)、新商品や人気商品を知ることがトライアル購買のきっかけにもなりえます。欲張りなことを言えば、アプリで商品のクチコミが閲覧出来たら良いと思います。
(参考:当パラグラフの内容を以下の動画でも解説しています)

スギ薬局は、ユーザーの特性に合わせたメッセージやクーポンを配信する「スギ薬局アプリ」を始め、処方箋を送付できる「スギスマホでお薬」、歩数を計測する「スギサポwalk」といったアプリをリリースしています。これらのアプリを通じて、顧客の購買情報や健康情報情報を取得していますが、異なるアプリ間で顧客IDが統合されており、ひとりの顧客に関する幅広い情報が蓄積されていきます。これを活用することで、より手厚い情報提供や、顧客ニーズに合った商品やサービスの開発なども可能になるでしょう。

小売企業が抱える課題と顧客体験価値の向上

長年、小売企業は、新規出店をすることで新規顧客を獲得し、売上規模を拡大してきました。しかし、人手不足など、様々な要因で、かつてのように新規出店を継続することが難しくなってきています。また、多くの店舗で、商圏内の人口が減少している状況において、既存店舗の来店客数が減少している小売業が目立ってきています。

今後、小売企業には、ひとりひとりの既存顧客を深く理解し、深い付き合いをしていくこと、言い換えれば、より良い顧客体験を提供する(顧客体験価値を向上させる)ことが求められるでしょう。そのためには、アプリの活用が欠かせません。

スマホのない生活など考えられない、という人が多い現代の日本において、アプリを使わない顧客体験価値の向上など考えられない――と言えば、(アプリを活用しなくても、素晴らしい売場で、極上の顧客体験を提供している小売企業もあるので)言い過ぎかもしれません。しかし、多くの小売企業にとっては、アプリが顧客体験価値向上のカギを握っています。

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〈お知らせ〉『流通大会2024』2024年2月5日・6日・7日

流通経済研究所は、2024年2月5日(月)・6日(火)・7日(水)の3日間、流通ビジョンセミナー「流通大会2024」を開催します。

初日の2月5日(月)は、「顧客への価値創造につながる商品・売場・DX」をテーマにプログラムを構成しています。本稿で紹介した、セブン-イレブンとスギ薬局のキーパーソンも登壇しますので、ご関心をお持ちの方は、是非、ご参加ください。

「流通大会2024」
1日目:2月5日(月)
テーマ:顧客への価値創造につながる商品・売場・DX

  • 需要減少トレンドを変えるための価値創造/山崎 泰弘(公益財団法人流通経済研究所 常務理事 流通・店頭・環境部門長)

  • 真の生活者価値を生む、味の素社マーケティング革新への挑戦/岡本 達也 氏(味の素株式会社 執行役常務 食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長)

  • スギ薬局DX戦略の推進状況と今後の計画/髙階 卓 氏(株式会社スギ薬局 システム・物流統括部 DXシステム部 部長)

  • セブン-イレブンが創造する新たな顧客体験/青山 誠一 氏(株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 取締役 常務執行役員 商品戦略本部長 兼 商品本部長)

「流通大会2024」の概要・プログラム・お申し込み方法は、以下の専用Webページでご確認いただけます。

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〈注釈〉TLとオプチャ

※1:タイムライン。ホーム画面に現れる、フォローしているアカウントによる投稿群。新しい投稿が上に表示される。ただし、Xの仕様変更により表示ルールは頻繁に変更されている。
※2:オープンチャット。共通の話題を持つ人同士で会話できるトークルームで、LINEでつながりのある友達同士でなくても会話ができる、LINEに登録したものとは異なるプロフィールを設定できるなどの特徴がある。