フードパントリーって知っていますか ?(後編)~街かどフードパントリーを運営する板橋社協のこれから~
公益財団法人流通経済研究所
研究員 寺田奈津美
こんにちは。前編では板橋街かどフードパントリー訪問の様子をご紹介しましたが、後編となる今回は、フードパントリーを運営する板橋区社会福祉協議会(以下、板橋社協)の活動について詳しく伺った内容を紹介します。「SDGs」、「居場所」、「子どもと食」などをキーワードに、板橋の地域共生社会の実現に向けて積極的に活動している板橋社協の取り組みはどのようなものなのでしょうか?
※前編はこちら👇
さまざまな人の居場所をつくる福祉の森サロン
―街かどフードパントリー以外にはどのような事業をされていますか?
板橋社協:「居場所」を1つのキーワードとして、地域のご高齢の方や障害を持っている方など、どうしても社会で孤立しがちな方々の居場所を作ろうということで、数年前から「福祉の森サロン」の活動支援を推進しています。
サロンというのは、みんなで集まっておしゃべりしたり、お茶を飲んだり、お菓子を食べたり遊んだりしようよっていうような場なんですけれども、それを定期的に月に1回以上はやってもらう、そういったところに活動費の支援をする取り組みをやっています。
現在区内では約330か所程度のサロンがあり(筆者注:区内にある小学校の約6倍にも上るんです!)、その中には子ども食堂や、親子で参加できる子育てサロンなど様々な活動があります。福祉の森サロンでは、居場所を運営する人と参加する人の境界をなるべくつけないようにし、例えばお茶を入れる人、お菓子を持って来る人、会場の準備をする人、というようにそれぞれの人が役割を持つことを大切にしています。
支援の受け手・支え手という関係を超えて、みんなが支え合い、役割を持っていこうというのが、地域共生社会の実現の大きな根底にあるものと考えています。
子どもの食・居場所支援事業
―サロンは参加するそれぞれの人に居場所と役割があって、地域に根付いて広がっていて、素晴らしい取り組みですね。役割が大切というお話にとても共感しました。その他の取り組みについても教えてください。
板橋社協:サロン以外にも、「子どもの食・居場所支援事業」として次のような5つの事業を行っています。フードパントリーはそのうちの1つです。
・子どもの居場所立ち上げ支援
・マッチング支援
・子供の居場所に関する情報連絡会や学習会の開催
・情報発信や活動のPR
・食を通じた相談・食支援(食品配布会の開催・街かどフードパントリー)
情報発信や活動のPRの取り組みの1つとして、「子どもの居場所マップ」を作って、年に1回、板橋区の全小学校にお配りしています。板橋区には2023年6月時点で51か所の子どもの居場所があり、区内の51校区すべてに子どもの居場所ができるようにさらに立ち上げを広げていこうと支援に取り組んでいます。
最近は、子どもの居場所の運営主体として、飲食店や高齢者施設を運営する会社など、子ども食堂を会社でやっていこうということで、ここ1年か2年で一気に板橋でも広がりましたね。
食を通じた相談・食支援では、令和2年度から食品配布会を開催しており、経済的な支援が必要なご家庭に広く食品をお渡ししています。配布会では地域の方がボランティアとして参加してくださることを通して、ただの食品配布の場ではなく、地域とのつながりを作るような場にもなっています。
また、企業の方が直接、自分たちの提供食品を配ってくださる場合もあり、企業の社員さんにも地域の温かみを感じられるような場にもなっていると思います。
企業連携について
-社協の企業との連携と、取り組みの拡大の展望について教えてください。
板橋社協: SDGsが広まったインパクトはだいぶ大きいですね。テレビなどメディアでたくさん取り上げられて、板橋社協の取り組みは「SDGs」と「食」と「子ども」とが結びついていて、企業が入ってきやすかったのかなと思います。食で子どもたちを支援しませんか、という働きかけは企業に伝わりやすく、SDGsやCSRの活動に取り組むきっかけになったのではないかと思います。
―最近はSDGsに取り組む企業が増えていますよね。
板橋社協:企業の方がこれらのパンフレットやホームページを見て、「自分たちの企業でも自分たちがやることで子供たちを支援できるんだったら」ということでお声掛けをいただくということはあります。これまで、社協としては、企業との連携はなかなかできていなかったというところもあります。そういう点で、「食」という1つのテーマで企業さんとのつながりが新しくできたというのは、ちょっと最初は想像もつかなかったことです。いろんな企業様に社会福祉協議会の存在を知っていただき、なにかあった時には社協に連絡しようと思ってくれるというつながりができたということは、社協にとっても大きいですね。
SDGsや「食」と「子ども」という、企業と社協、共通のキーワードをアピールしながら、食品を提供してくれる企業との継続的なつながりを拡大していけるような働きかけをしていきたいと思っています。
街かどフードパントリーの活動意義と今後
―最後に、街かどフードパントリーの取り組みの感想と今後の予定を教えてください。
板橋社協:これまでの食品配布会では、食品をお渡しするその方に、生活状況はどうですかとか、何にお困りですか、というようなことを尋ねて、生活状況を把握することができず、モヤモヤしたものがありました。フードパントリー活動では継続的な支援ができ、その方の困窮されている原因を特定し、それに合わせた支援をすることができるようになったという点で、やってよかったと感じています。
また、社協の活動は地域の方々のご協力を得て行われているので、そういった意味では、食品を通じて多くの企業様や新しい団体の皆様とつながりができたという点でもやってよかった事業だなと思います。
フードパントリーを板橋区内のほかの場所にも設置してほしいという声はいただいていますので、まだ具体的にはなっていませんが、今後検討されていくのではないかと思います。
終わりに
前編、後編を通して、板橋区の食支援を中心とした地域支援の取り組みを取材しました。街かどフードパントリーをはじめ、板橋社協の地域共生社会の実現に向けた今後の展開に注目です。