外食産業の食品ロス削減「mottECO(モッテコ) FESTA2024」参加レポート(前編)
こんにちは。今回は7月29日に開催された食品ロス削減イベント「mottECO(モッテコ) FESTA2024」に参加した様子をお伝えします。産官学が連携して取り組んでいる飲食事業者の食品ロス削減の現状やその効果、さらにmottECOの活動拡大における課題や展望などについてご紹介します。
公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
「mottECO(モッテコ) FESTA2024」の概要とmottECOの取り組みについて
このイベントは「mottECO」の普及を目指すとともに、関係省庁、自治体、大学、事業者等による食品ロス削減紹介のブース出展やパネルディスカッション、講演会、もったいないメニュー等の試食を通じて、食品ロス削減を中心としたSDGs、資源循環等、環境に関わる啓発を目的に開催されました。
「mottECO」とは、飲食店で食べきれなかった料理を「お客様の自己責任で」持ち帰る取り組みのことです。
講演:株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 代表取締役 小松 雅美氏「企業が進めるSDGsと食品ロス対策」
セブン&アイグループは環境に対するさまざまな取り組みを進めてまいりました。2019年に環境宣言「グリーンチャレンジ2050」を発表しましたが、その後、拡大する異常気象などに対して、より真摯に取り組む必要があると考え、2021年にこの環境宣言を見直し、現在の内容に至っています。
私たち外食業も含め、事業活動を進める中でさまざまな環境負荷が生じます。その中でも、社会的影響が大きい4つの分野、すなわちCO2の排出、プラスチック対策、食品ロスの問題、そして持続可能な調達の問題に絞り、数年後に迫った2030年の目標と、次世代に対する責任としての2050年の目標を掲げ、現在グループ一丸となって取り組んでおります。
本日は、その中で当社が進めている食品ロス対策についてお話ししたいと思います。
取り組みを進めるにあたって、私ども1社だけでできることは限られており、社会に大きな影響を与えることは難しいと考えています。ここにも記載されていますように、お客様、リサイクラー、農家様、同業他社、外部団体、そして国や地方自治体の皆様とパートナーシップを組んで環境保全に取り組むことが、食品ロス削減の目標に最も近づく道であると考えています。
本日お話しする内容も、我々の会社だけでなく、パートナーシップを通じて食品ロスを削減してきた事例です。
今ご覧いただいている写真ですが、左側にコーヒー、右側には放牧されている牛の写真が映っています。この写真が食品ロス削減とどう関係しているのか、不思議に思われるかもしれません。
実は、私たちがレストランとして営業していく中で、コーヒーは非常に重要な商品です。販売すればするほど売上が上がり、粗利も増えるため、将来的にも非常に重要視している商品ですが、コーヒーを売るたびにコーヒーかすが発生します。このコーヒーかすは食品廃棄物の一つであり、売上が増える一方で廃棄物も増えてしまうという大きな問題を抱えています。このコーヒーかすの問題を解決する糸口が、右側の写真に映っている牛さんたちです。
レストラン初:コーヒーかすに特化した食品再生利用事業計画認定:コーヒー豆かすからハンバーグへ
3R(Reduce、Reuse、Recycle)の中で、最初に取り組むべきことはゴミを減らすこと(Reduce)です。その上で、再利用や再資源化が進められるべきですが、実際には、私たちの店舗で出る食品廃棄物の約3割がコーヒーかすであり、減量や再利用は難しいのが実状です。売れば売るほどコーヒーかすが増えてしまうというジレンマを抱える中で、コーヒーかすの焼却をどうやって減らすかということに対して、私たちは再資源化に注目しました。
先ほどご紹介した牛さんたちには、大いに活躍してもらいました。デニーズで出るコーヒー豆カスを回収し飼料化、牧場に運び、それを餌の一部として牛たちに食べてもらいます。そして、その牛から得た生乳を使ってホワイトソースを作り、それをメニューに活用しました。
自慢話のようですが、この取り組みは非常に良いものだと思っており、私たちとしても、このホワイトソースを使ったメニューが多くのお客様に支持されることを祈っていました。しかし、このメニューはカボチャと生ハムを使ったグラタンであり、特に男性のお客様にはかぼちゃを使ったメニューはあまり人気がなく、正直に申し上げると、あまり売れませんでした。
せっかくの取り組みも商品として売れなければ、コーヒー豆カスの再資源化の意味がないということで、商品開発スタッフも危機感を覚え、すぐにメニューを見直し、ハンバーグのホワイトソース仕立てという新しい商品を開発しました。結果として、このメニューは多くのお客様からご支持をいただき、現在ではハンバーグの売り上げの中でも上位を占める商品となっています。この取り組みにより、コーヒー豆カスの資源化が進んでいます。
この取り組みは、2022年10月に食品再生利用事業計画として認定されました。特にコーヒーの豆かすに特化した認定は、レストラン業界では日本初の試みとなります。これに甘んじることなく、新しいメニューを開発しながら、さらにコーヒーの豆かすの廃棄削減に繋げていきたいと考えています。
コーヒーの豆かすをタンブラーにアップサイクル
コーヒーの豆かすに関しては、新たな取り組みとして、今年の3月からアサヒグループのアサヒユウアス様が行っている「すみだCoffeeプロジェクト」に参加しました。このプロジェクトは、墨田区内の喫茶店やレストランなどから豆かすを回収し、それを加工してタンブラーなどの製品に再利用する取り組みです。現在、墨田区内のさまざまな場所でこれらの製品が活用されています。
私どもも墨田区に3店舗を展開していることから、早速アサヒユウアス様にお願いし、このプロジェクトに参加しました。その際、ご好意により、コーヒーの豆かすを使ったデニーズ専用のタンブラーを作っていただきました。この専用タンブラーはデニーズ全店に設置されており、お客様からも飲み口を含めて非常に高い評価をいただいています。
もしお近くにデニーズがありましたら、コーヒーマシンの近くにこのタンブラーが設置されていますので、ぜひお試しいただければと思います。
調理場由来の廃棄物のリサイクル―日本初の5社合同のリサイクルループ構築も
これまで、コーヒー豆かすの削減や再資源化の取り組みについてお話ししましたが、店内で発生するその他の廃棄物についても取り組んでいます。特に調理場由来の廃棄物、たとえば調理ミスや野菜の切れ端、賞味期限が切れて廃棄せざるを得ないものなどが、全体の約3割を占めています。
これらの調理場由来の廃棄物についても、パートナーシップを組んで対策を進めています。例えば、千葉のデニーズの店舗で発生した調理由来の廃棄物をリサイクル施設に運び、そこで発酵させてたい肥にし、それを野菜の肥料として利用し、野菜を作るという取り組みを行っています。実際に、ソフトケールという野菜が生産されましたが、まだ収穫量が少ないため、デニーズのメニューとしてではなく、当社の事業の1つである社員食堂事業で使用しています。
このような取り組みを通じて、年間約27トンの食品廃棄物削減が見込まれています。
その他にも、同業他社とパートナーシップを組んで、「合同リサイクルループ」を作りました。中京・名古屋市内の松屋フーズ様、リンガーハット様、トリドールホールディングス様、ワタミ様、そして当社の5社38店舗が協力し、それぞれのお店で発生する食品廃棄物を鶏の餌として活用し、この餌を食べた鶏が産んだ卵やそれから作る商品を、また各社で使用するというリサイクルループを構築しています。
この取り組みは「合同リサイクル」としては日本初とされ、厚生労働省、農林水産省、環境省の3省から食品再生利用事業計画として認定されています。また、令和2年度には、この取り組みが農水省の「もったいない大賞産業局長賞」を受賞しました。この取り組みにより、年間で約15トンの食品廃棄物の削減が見込まれています。
フードバンクとの連携を推進
その他の部分の食品ロスについてですが、店舗では販売終了商品というものが発生します。年に数回、メニューの大幅な見直しを行っており、その際に発生する販売終了商品や、社員の家庭で眠っている食品などをフードバンクに寄贈しています。これにより、SDGsに掲げられている「貧困をなくす」目標にも貢献できるのではないかと考えています。
食べ残し問題への挑戦―「mottECO事業」
これまで、コーヒーかすや調理場由来の食品廃棄物に関する施策についてご説明いたしましたが、同様に食べ残しも重量ベースで廃棄物全体の約3割を占めています。本日開催している「mottECO」は、この食べ残し問題にチャレンジするための取り組みです。
「mottECO」とは、食べ物を捨てない社会を目指し、「食べ残したら持ち帰り、食べきることでゴミにしない」という環境省が推奨する取り組みです。実際には、環境省、農林水産省、消費者庁が合同で進めており、政府の推奨といってもいいと思います。「もっとエコに」「持って帰ろう」という言葉の語呂合わせから、「mottECO」という名称が付けられました。
mottECO事業は、2021年に当社とロイヤルホスト様が、食べ残し問題に取り組んでいこうと手を携えたことから始まりました。翌年の2022年には、和食さと様と日本ホテル様が加わり、4社によるコンソーシアムを成立させました。
その後、2023年度には杉並区様、京王プラザホテル様、びっくりドンキー様が新たに加わり、年度末には外食8社、ホテル8社、中食1社、自治体2つ、そして大学2つが参加する、産官学を巻き込んだ合計21団体の連携へと拡大しました。この産官学の連携を、普及啓発アライアンス「mottECO普及コンソーシアム」として推進してまいりましたが、これは全国でも類を見ない規模で進んでいる状況です。
その取り組みの成果が評価され、2023年10月には、令和5年度食品ロス削減推進表彰環境大臣賞を受賞するに至りました。さらに、今年6月には、この産官学連携による食品ロス削減の取り組みが環境省の「mottECO導入モデル事業」に4年連続で採択されました。このように、我々の取り組んできたことが各方面での高い評価につながっていると感じております。
「mottECO」の取り組みの定量的評価については、開始当初の2021年度には126店舗で実施し、9.4トンのゴミ削減に成功しました。その後、参加店舗数が増えるにつれて、2022年度末には750店舗で52トンの削減を達成。昨年度末には1000店舗を超え、72.4トンのゴミ削減を実現しています。今年度末には1200店舗以上の参加を目指しており、ゴミの削減量は81トン以上になる見込みです。
ボトムアップでパーパスを策定、環境問題や食品ロス削減も社員一人ひとりが自ら考え、実践へ
以上のような食品ロス対策を、全社的な動きにしていく必要があると考えたきっかけとなったのが、コロナ禍でした。コロナが直撃し、当社も売り上げの大幅な減少、約40パーセントの減収という大赤字の状態に陥りました。困難な状況下で、「私たちは何のために存在しているのか? 我々の存在意義とは何なのか?」と考えさせられました。
どのように存在意義を考えていくかという課題に対して、私が最も嬉しかったのは、企業理念や経営理念をボトムアップ型で作り上げたことです。本日紹介してきたコーヒーかすやプラスチックの削減などの取り組みは、私や役員が指示を出して進めてきたわけではなく、現場の発案と行動がその原動力にあります。企業理念やパーパス、ミッション、ビジョンをトップダウンではなく、現場からの意見を取り入れて進めたいと考えていたところ、有志が集まり、試行錯誤を重ねながら制定しました。
ここに示されている7つの行動規範は、パーパスという企業の北極星として目標を目指すにあたり、全社員が守るべき行動を示しています。これらの行動規範も、パーパスやミッションと同様にボトムアップで制定されました。
これらについては、クレドカードと言って、パーパスからバリューズまでをまとめたものを社員全員が常に携帯し、始業前や仕事の合間にこれを確認しながら日々の業務を振り返るということをしています。
このように、経営理念や行動規範を社員自らが考え、決めていく中で様々な成果が出ています。例えば、エコ検定には全社の94%が合格し、環境プランナーや環境カウンセラーの資格を取得した社員が学校や自治体で講演を行ったりもしています。さらに、食品ロス対策を含めたSDGsに対する施策として、社員から約50件の提案があり、実際に動き出しています。
コロナをきっかけに、経営理念を定め、自分たちのやるべきことを明確にしたことで、社員一人一人が「自分がやらずに誰がやる」という強い気概を持ったことが、このような社内の変化につながっていると感じています。トップダウンでの取り組みではなく、社員一人ひとりが自ら考え、行動することが、環境負荷の問題などのさまざまな課題解決の一番の有効策ではないかと考えています。
次のグラフは、実際に取り組みを進めていく中での、当社のCO2削減状況を示したものです。2023年に関しては、すでに2030年の目標値を達成している状況ですが、先ほどもお話ししましたように、コロナの影響で売上が減少したことも考慮すると、この数字に満足することなく、今後も社員一同で取り組みを推進していきたいと考えております。
とはいえ、個人や1社だけではこの大きな問題を解決できるとは思っておりません。やはり、多くの方々にご賛同いただき、パートナーシップを広げていくことが非常に重要だと考えております。現在、同業他社15社をはじめ、官庁やホテルなども当社とともに環境問題やサステナビリティ活動に取り組んでいます。
今回の「mottECO(モッテコ)フェスタ2024」に多くの皆様にお集まりいただけたことを嬉しく思います。この「mottECO(モッテコ)フェスタ」が環境負荷やサステナビリティ活動におけるパートナーシップの広がりの一助となればと思います。
そのほかの記事はこちら⇩
💡流通経済研究所「サステナビリティ経営~ケーススタディ集~」
#流通経済研究所 #サステナビリティ #mottECO (モッテコ) FESTA2024 #環境にやさしい #外食産業 #食品ロス削減 #もったいない #産官学連携 #アップサイクル #脱炭素 #規格外農産物 #環境負荷低減 #社会課題解決