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実際のところ、今なら断ってしまう社労士のお仕事
開業当初私は、経験値を積むために来た仕事は断らないというスタンスでいた時期がありました。
そうして色んな実務に触れ社労士としての経験値を積んできました。
しかし徐々に開業社労士として仕事が増えてくると、意図的に自分が「出来ればやりたくない」「できない」仕事を外すことを考えなければなりません。
今日は、開業社労士である私が実際のところ「出来れば受けたくない」もしくは「意図的に受けないようにしている」お仕事3選を、個人の偏見のもとご紹介します。
1.スポット契約による助成金申請代行業務
「スポット契約」と言うのは、基本的に顧問契約を結ばず単発で契約上の業務だけを受注する、という契約体系を指します。
助成金のスポット業務は、私に限らず避けたがる社労士は多い印象です。
理由はなぜか。
まずは「社労士側にとってリスクが高い」ことが挙げられます。
スポット契約のお客様というのは、普段の労務管理を社労士が見ていないためまずは「助成金の申請が可能なレベルで労務管理ができているか」という実務面を確認する必要があります。
そこで適正なレベルで労務管理が出来ていない会社であれば助成金は申請することは難しくなりますし、助成金の申請までたどり着かなければそこにかけた手間暇が社労士にとっては損失になります。
実際に、労務管理の改善をアドバイスして、素直にどんどん改善してくださる方ばかりだと良いのですが、例えば誤っていた給与計算を正して遡及支払まではしたくない、面倒だから就業規則は作りたくないという反応が返ってきて助成金申請を見送ったこともありました。
更に言えば、万が一、会社が社労士に助成金の申請のための「虚偽の書類」を提出してきたとしても、普段からお付き合いのない会社であればその虚偽に気づくのは難しくなります。
思いがけず不正に加担してしまうというリスクを避けるため、どのようなお客様か分からないうちはスポット契約で助成金申請代行に関与することは避けるようにしています。
次に、単純に「助成金は難しいからやらない」という社労士も結構います。
私は顧問先のお客様であれば、使える助成金はどんどん適正に使ってほしいと考えていますが、確かに助成金は要件確認や手順は慎重に進めないとうっかり不支給になることもあるため、私も助成金の申請の際は神経をすり減らします。
もちろんお客様目線で言うと、顧問契約なんかにお金払えないし、でも助成金は欲しいからスポットでやってくれる社労士のニーズは高いだろうなということは理解できます。
この辺は社労士の方針によるところなので、諦めずにスポットで受けてくださる社労士さんを探していただくようお願いしています。
2.個人の方を対象とした年金等請求業務
こちらも良い、悪いの話ではなく「取扱業務」の範囲が社労士によって異なる、というだけのお話です。
社労士の中にも、企業の労務管理が主力業務社労士や、助成金申請代行が主力業務の社労士、そして個人の方向け年金裁定業務が主力業務の社労士など、専門が分かれるケースが多いです。
私のところには実際に、個人の方から障害年金の裁定請求、老齢年金の裁定請求、傷病手当金の申請などの代行業務のご依頼があります。
しかし私の場合は企業のお客様の労務管理が主力業務ですし、年金は非常に専門性の高い分野なので、現状個人の方の年金や給付金業務を受ける余力がありません。
このようなご依頼があった場合は年金専門の社労士さんをご紹介するようにしています。
3.手続業務のスポット契約
手続業務のスポット契約とは、例えば入社手続きだけ、とか離職票の発行だけ、とか手続単発でお仕事の依頼を受ける形です。
普段からお付き合いのあるお客様であれば、何も言わなくても必要な書類を提供していただけますが、一元のお客様には一から個別に説明をしたり必要な会社情報をご用意いただく必要があるため、どうしても手間と時間が余計にかかってしまいます。
大きな社労士法人で人手があればいいのですが、うちの事務所の規模でスポットの手続業務は受ける余裕が現状なく、申し訳なく受注をお断りしている状況です。
ただ、知り合いの方からのご紹介だったり社会貢献活動の方だったりすると、例外的に受託させていただくこともあります。
社労士は依頼を断ることはできないのか?
社会保険労務士法20条では、「開業社会保険労務士は、正当な理由がある場合でなければ、依頼(紛争解決手続代理業務に関するものを除く。)を拒んではならない」とされています。
この部分だけ読んだら、来た依頼は基本は全部受けなければならないようにも読めますが、その解釈は結構柔軟なようです。
例えば、依頼された事件が法令に違反するものであるとき、社会保険労務士の業務の範囲を超えるものであるときはもちろん、依頼された事務の内容からみて依頼者の希望の日時までに処理することが困難な場合等のように、依頼を拒む理由に故意性がなく、かつ、法律的、時間的、物理的にみて依頼に応ずることが困難とみられる相当な理由があるときは、「正当な理由」があるものとされています。
困っている方がいればそれを仕事としてお手伝いできれば良いのですが、現実的に自分のキャパ以上にお仕事は受けられないので、やはりどこかでお仕事を取捨選択して、自分の得意分野・強味を磨いていくのが、方針としてはいいのだろうなと思います。
以上、ご参考いただければ幸いです。