![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/157493629/rectangle_large_type_2_6bf1852aa32a764c4580cf239d7159b3.png?width=1200)
不登校 つづき2話
ゲームの中のお兄ちゃんは、東京ドームよりも大きくてカッコいい飛行船に乗っていた。
でも最初の頃に比べると、動きは鈍くなっていたし、光り方もまだらだった。
それに、時々ガタガタ音を立てて揺れたりもした。
基地が見えても、敵の飛行戦にすぐに見つかって、エネルギーの補充さえもできなかった。
多分、近々お兄ちゃんの飛行船は、宇宙のゴミになってブラックホールに飲み込まれる。
みんなも私もそう思った。それに、AIも同じ答えだった。
今のままでは絶対絶命です。乗組員のみなさんはできるだけ低姿勢で爆発の衝撃から回避してください。回避してください.回避してきださい。
乗組員になったお父さんとお母さんが呟いている。
奇跡なんて起こらない。世の中はそういう場所。もう絶対絶命。
私はぬいぐるみの代わりに絶望を抱えて、お兄ちゃんの居る操縦室に入った。
操縦室の椅子に座っているはずのお兄ちゃんの姿が見当たらない。
操縦室は、紙の山に埋もれてる。よくみると、全部、紙飛行機だ。お兄ちゃんはコピーした紙の山から頭を出し、「お前も手伝えよ。まだ時間はある」と言った。
なんだかわからないけれど、私は必死で紙飛行機を折った。折り紙は嫌いじゃないし、楽しかった。
紙飛行機は天井に届くほどいっぱいになって、そしてお兄ちゃんが言った。
「今からハッチを開いて、紙飛行機を放つから、操縦室を出てみんなの場所に戻ったほうがいいよ」
「お兄ちゃんは、どうするの」
「大丈夫、僕は後で行く。僕の方法で行くから」
急に辺りが真っ暗になって、遠くに小さな光が見えた。
その後、どうなったのかは覚えてないけれど、お母さんの声で目が覚めた。
「もう朝よ」
私の手の中には小さな紙飛行機があった。
開いてみると、詩が書いてあった。
「僕の船は友達みんなが乗れるように広くしてある。
裕太、健二、慎ちゃん、圭介、蒼くん、ゆみちゃん、宏、マキちゃん、友達みんな。もちろん家族も。それにまだ会ったことのない友達もみんなだ。宇宙の彼方の友達も。
僕の船は、みんな乗れる。嘘じゃない。みんなのストーリーをのせる場所もある。短編もあれば、延々と続くのもある。本当の話も作り話もある。終わった話。書きかけの話。キャンパスもある。絵の具だってある。音楽家のためにはピアノだって積んである。フライドチキン、ハム、チーズ、ロールパン、フランスパン。
友達と僕が好きなものはなんだってある。人の先を越しもせず、遅れもとらない。
僕の船はみんな乗れる船。
僕はそういう船を完成させたいんだ。」
〔レイモンド カーヴァーの詩引用〕
もうお兄ちゃんは、ゲームの中にはいない。夢を乗せた現実に乗り換え、
今日も遅くまで、机に向かってた。