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大人の「現代文」……『羅生門』6 「道徳」と「倫理」の違い
「倫理」ってなんだ?
さて、探求を進めます。芥川は日本人の「道徳」が「時折々の状況の産物」で頼りないものだと言いました。一番肝心なことは、この「道徳」という言葉の意味です。もう一つ似た言葉に「倫理」がありますね。難しい定義をちょっと措いて、道徳は人の行動のルール、倫理はその根源の「精神」のように捉えましょう。広辞苑には倫理とは「実際道徳の規範となる原理」という説明がありますから。
芥川の意識しているのは「人のものを取ってはダメ」とか「死体を冒瀆してはダメ」という実例からして、確かに彼の言うように「道徳」でしょう。 それなら、それらの「道徳」を成り立たせる「倫理」とはどのようなものでしょうか。
皆さん、「倫理」を一番意識できる言葉をどう思い出されますか?
よく、我々は「そんなことしたら、人としてだめでしょ」とか「それは人として許せない!」とか「人間ならばこうあるべきでしょ」といったある種の絶対表現をつかいますよね。絶対に許せない行為に対して、「それは人間のすることではない」といった言い方をしますよね。この場合の「人」や「人間」に託されたもの、あるいは「在り方」こそ「倫理」だと思いませんか?
私はそう捉えています。すなわち、「人間の本質的にあるべき姿」こそ「倫理」だと思うんです。
そこでもう一度確認します。
芥川は、そういう人間の本質論を問う意味で「道徳」という言葉を使っているのか?ということです。
私は、そんなに深い意味で「道徳」という言葉を使っているようには思えないのです。つまり彼は「道徳」については言及したが、根源の「倫理」
については言及していないということです。