AI分析で運動パフォーマンス改善。シリコンバレーからデジタルヘルス市場を切り開く「UPLIFT」
DEEPCORE の出資先であるUplift Labs, Inc.(以下「Uplift」)は、「Improve human movement performance across all parts of life(生活のあらゆる場面で、人間の運動パフォーマンスを向上させる)」をミッションに掲げ、AI運動分析プラットフォームを提供しています。シリコンバレーに拠点を置く彼らは、いったいどんな未来を描いているのでしょうか。代表の樺山 資正さんにインタビューしました。
ローンチから約2年で、メジャーリーグ10チームと契約
——まずはUpliftの提供するAI運動分析プラットフォームについて具体的に教えていただけますか?
樺山:AI運動分析プラットフォーム「Uplift Capture」は、骨格の動きを分析し、パフォーマンスの向上やリハビリの効率化をサポートするサービスです。
自身の体の使い方(フォーム)を確認して改善する方法は、世界的にみてもまだあまり確立されておらず、スポーツやフィットネス、リハビリなどの領域において課題とされています。
ウェアラブルデバイスでモーションキャプチャを活用する例がありますが、5,000万円〜1億円する高額なセンサーやカメラシステムのため、趣味でスポーツをするような一般の方には到底手が届きません。また、仮に実際の動きがわかったとしても、改善方法はスポーツのコーチやリハビリの先生など専門家を介する必要があります。
このような課題をAIの力で解決できないかと考え、約5年前にUpliftを設立しました。独自のAIのソフトウェアを活用して、iPhoneやiPadがあれば人間の関節の動きを高精度で捉えることができます。
アメリカと日本で特許を取得した「ムーブメントプラットフォーム」は、複数台のスマホで人間の骨格や動きをスケルトンに起こして解析し、それをいろいろな分野に応用できます。
例えば、スポーツ分野ではゴルフのスイング、野球のバッティング。フィットネス分野では重量挙げ。リハビリ分野では治療に活用できるほか、物流センターや運送に従事する方が腰を痛めないために使うなど、この汎用性そのものが特許になっています。
——「Uplift Capture」はどのようにスタートしたのですか?
樺山:創業当初は、フィットネスジムで利用者のカルテを電子化したり、いろいろな運動法をトラッキングして解析したりと、そういうことを考えていました。
ですが、私たちの製品が本当に顧客が抱えている悩みや問題に直結してるのかどうかを確認する過程で、ターゲットのニーズと私たちに提供できる価値との間にミスマッチがあるとわかったんです。
ちょうどそのタイミングで、世界最大手のゴルフインストラクションの会社であるGOLFTEC社の知人と話していて、「フィットネスの動きを解析できる技術があるなら、ゴルフのスイング解析もできるかもね」とワインを飲みながら盛り上がったんです。そこから話が進みました。
——すごいタイミングとご縁がピボットにつながったんですね。
樺山:当時GOLFTEC社は世界850に以上のインドアゴルフレッスンのスペースを持っていてウェアラブルデバイスを使っていたのですが、ユーザー体験をより向上させるため、計測器具を身につけるのではなく、動作をカメラで撮影してAIで解析することを提案しました。
2021年の夏にローンチし、年間で200万人以上のゴルファーがこのサービスを活用しています。
——そこから他のスポーツにも展開していったんですね。
樺山:ゴルフのスイングや野球のバッティング・ピッチングで生じる、上半身と下半身の捻りの動きにユースケースが絞れたことで、検証期間が短く済みましたし横展開もしやすくなりました。
さらに、iPhoneとiPadの2台だけで、従来のウェアラブルデバイスと同等の高精度な解析ができるAIソフトウェアを開発しました。これでポータビリティを確保することができたのです。
そのおかげもあってローンチから約2年間で、野球の領域ではメジャーリーグチームの3分の1にあたる10チームと契約できました。あらゆる場所に持ち運んで、選手の3次元データを取得して分析しているんです。昨年はNBAともタイアップしました。
ただ、プロ向けだけでは市場規模が限られてしまいます。市場開拓の次のステップとして範囲を広げ、大学や、アマチュアの個人レッスンにも使えるよう、サービスをよりシンプルにしました。プロからスタートして技術レベルを認めてもらい、裾野を広げてヒットさせていく。そんなセールス・マーケティングの戦略を練っています。
シリコンバレーの発達したエコシステムと、忖度なく議論できる共同創業者たち
——一見スムーズにいったように見えますが、苦労はありましたか。
樺山:創業してからは、ジェットコースターのように紆余曲折の連続でしたよ。でもおかげさまでピボットできたのは本当によかったです。パンデミックの間、フィットネスジムのビジネスって全滅でしたよね。大手が倒産したり、一気に拠点を閉鎖したり、ジムに通う人が一気に減りました。そういう意味では本当にピボット前のサービスだったら、私たちは今ここにいないかもしれません。
——ピボットをはじめ、大胆なチャレンジを継続できているのは、やはり起業前の豊富な経験によるものなのでしょうか?
樺山:それも一部はあると思いますが、私にはスタートアップで0から1をつくってスケールさせた経験がありませんでした。それでも慎重にならずに思い切ってやれているのは、共同創業者であるCTOのジョナサンとAIオフィサーのラフール、この2人の存在が大きいです。
彼らとは創業前に他のスタートアップで一緒に働いていたので、お互いのスキルセットや性格をわかりあえています。
もちろん時に衝突もありますが、本当に顧客のための選択ができているのか議論できる3人だからこそうまく噛み合っているのかなと感じます。
——日本の企業文化とは異なり、忖度や遠慮のない、フラットな文化なのかもしれません。
樺山:まさにそうですね。年齢とか今までの経験値って逆にハンディキャップだと思います。「今までこうだったから」ではなく、常にファーストプリンシプルに基づいて考えていくことが重要です。
——拠点としているシリコンバレーの環境はいかがですか?
樺山:ここのエコシステムはすごく発達しています。投資環境、エンジニアなどいろいろありますが、あまり話されてないアドバンテージのひとつはメンタリングのエコシステムだと思います。
2、3回会社をつくって上場したり、EXITさせたりしたファウンダーがたくさんいるんですよね。そしてそこでリタイアするのではなくて、多くが「また何か会社を興して成長させたい」という熱い思いをもった人たちです。
彼らに「ちょっとコーヒーでもおごるのでアドバイスくれませんか」と言うと快く応えてくれるんです。こういうスケール感であったり、ギブバックの精神にすごくダイナミズムを感じます。
——メンターにもらった印象的な言葉や大事にしていることは何かありますか?
樺山:この言葉をもらいました。
とにかく諦めない。絶対何か突破口がある。ポジティブで、時に楽観的でいることはCEOの役割だと思うんです。どんなにつらくてもポジティブでなければチームがついてこないので、常にネバーギブアップスピリットを見せないと、と意識しています。
ただ、絶対に諦めてはいけない一方で、冷静にマーケットからのシグナルを読み取って経営の舵を切ることは重要です。資金には限りがありますし、チームのモチベーションも低下してしまうかもしれないので。
2年後に見据えるは、スポーツの枠を超えたデジタルヘルスの分野
——DEEPCOREとの出会いはどんな影響がありましたか?
樺山:DEEPCOREとの出会いがなければ、今のUpliftはないと思います。
特にパンデミック初期のスランプの時期にはいろいろな支援を受けました。もちろん資金の面もありますが、何よりもマンスリーミーティングの存在が大きかったです。次のミーティングで、何かしら前進してることを報告したいというのがモチベーションになりました。
DEEPCOREは起業家から見ると最もありがたいタイプの投資家で、うまくいってるときもそうでないときも、豊富な経験のもと適切なアドバイスをくれますし、チャレンジを応援してくれます。間違いなく、DEEPCOREは戦略的なパートナーだと感じています。
——今はスポーツに特化していますが、今後はどのような未来を目指しているのでしょうか?
樺山:スポーツ領域でブランドづくりを進めている最中なので、この1年は引き続きスポーツを軸にしていきます。ゴルフから始めて野球に裾野を広げましたが、今度はプロからアマチュアへと母数を広げていくフェーズです。
人間は一人ひとり、筋肉の構成も関節の可動域も異なります。関節の固い人にタイガー・ウッズと同じ動きを求めるのは無茶ですよね。これには私も驚いたのですが、特にアマチュア関係のスポーツやフィットネスって、その人が生まれ持っている関節のナチュラルな動きをほとんど見ずにこれまでの経験に頼ったコーチングをするんです。ピッチングするとき、腕をきっちりあげなさいとか、肘をもっと上げるようにとか。
でも、人によってはそれが自然にできませんし、無理にやれば怪我に繋がっていく可能性も大きいですよね。なので、その問題を解決するための製品も今年新たに増やしました。
——さらに大きな事業展開に繋がりそうですね。
樺山:その次はデジタルヘルスの分野に進みたいと思っています。私もそうだったのですが、スポーツやフィットネスをして怪我をする人はすごく多いんです。そうするとリハビリやスポーツ医療の領域に入っていくことになります。
今後2年くらいのゴールとしては、デジタルヘルスの分野に進出して、人口がもっと大きいユースケースで、次のビジネスの柱を立たせることが目標です。
——ありがとうございました!
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