「大聖堂の思考」と 100年後へ向けたプロジェクト:Future Library
みなさんはの中には、何かしらのプロジェクトに関わっている方が多いかと思います。
日々、たくさんのプロジェクトが世の中をあらゆる方向へ変えていこう、としています。プロジェクトとは、<pro>前方へ + <ject>投げること、未来ーここではないどこかーへの投げかけです。
とはいえ、その未来の射程距離はどんどんと短くなっているように感じるのは、気のせいではないでしょう。
ぼくたちはいま、かつてなく「現在」が評価される時代に生きている。目の前のこの瞬間にどれだけの注目を集められるか、政治家も実業家もクリエイターも、みなそれだけを指標にして、つぎからつぎへ新奇な言葉や商品を送り出す時代に生きている。
ー東浩紀「テーマパーク化する地球」より
必要性や有用性という便宜のもと、どうしよもなく「イマココ」へわたしたちの日々の感覚は閉じられています。いま、わたしたちが目を向けるべきことは、たいていにして複雑怪奇。環境危機も日本の政治状況も、10年や20年でどうにかなるものではないのかも。
もっと遥か遠い未来を考えるには、どうしたらいいでしょうか。
今回は、「大聖堂の思考」とよばれる考え方をもとに、わたしたちが生きられる人生の時間軸を超えて、継承されるプロジェクトにふれることで、想像力の射程を伸ばしてみたいと思います。
人生を超えた継承プロジェクトを「大聖堂の思考」からまなぶ
「大聖堂の思考」とはひとことで言えば
将来の世代のために、あるいは将来の世代の利益のために実現される長期的なプロジェクトや目標
ーAspiring vision: Cathedral thinking in the modern worldより
だとまとめられます。
完成までにとても長い時間がかかる大規模なプロジェクトで、特色としてそのプロジェクトメンバーは、自分たちの活動の成果を見ることができないことを知りながら、コミットしている点。つまり、恩恵はすべて未来の世代へと受け渡されます。自分の努力が、生きているあいだに日の目を見ることはないなんて、と書きながらも思ってしまいつつ...。
わかりやすいもので例をあげると、サグラダ・ファミリア。1882年にガウディが建設をはじめてから、2026年に完成予定とされています(現在はCOVID-19の影響で遅れが発生)。
では、なぜ「大聖堂」なのか。中世の時代には一世代で終わらない、大聖堂の建設プロジェクトが多数生み出されたからです。サグラダ・ファミリアの他、有名なケルン大聖堂は1248年に建設され1880年に完成、600年以上の時を経ています。
「大聖堂の思考」とは、中世の時代に、建築家や石工、職人が、礼拝所や地域の集会所、安全な場所としての高さのある洞窟のような建造物の計画を立て、建設を始めたことに由来します。
ーWHAT IS CATHEDRAL THINKING?より
ただ、中世と現代では社会状況も時間間隔も大きく異なります。たとえば、進歩という感覚は近代に生み出されたもの。また、1秒1分を測る機械時計もありませんでした。教会が朝昼晩に手で鐘をうって時間を知らせる、などが一般的だったといいます。
中世では、より円環的な時間に生きていたのだと思いますが、それにより「進歩的な未来」へ期待することもなく、自分を超えた大きな目的を祝福もできる、などの理由から100年をゆうに超える大聖堂を建設可能になったのです。
今では、このような宗教観も時間間隔も失われています。住宅だって以後100年間その土地にのこるかもしれませんが、平均して1-2年で建てられます。webアプリは最速で3ヶ月ほどでローンチされます。
目の前の必要性や合理的な考えが強い世の中ですが、そればっかりでは生きていて愉しくありません。自分が死んだあとに続くくらいのロマンを求めたっていいのではないか、むしろ意識的にそこへ視点をもつことで、今に支配されない自由さを取り戻せるのではないか、と思います。そんな、現代に風穴をあけるような「大聖堂の思考」のインスピレーションとなるプロジェクトを紹介します。
100年先にしか読めない本をあつめるFuture Library
アーティストKatie PatersonのFuture Libraryは2014年から2114年まで、毎年作家からオリジナルに執筆された本を集め、100年後に建設される図書館で公開するプロジェクト。著名な作家から毎年原稿をあつめているものの、開始から100年後の2114年まで、その著作は決して読めないのです。
画像引用: https://www.futurelibrary.no/
現在、ノルウェーのオスロ郊外にて1000本の植樹がなされ、100年後その木々から生まれた紙にそれぞれの著書が印刷される予定です。それまでのあいだ、毎年寄稿された原稿はオスロの2020年オープンしたDeichmanske Library内の特別スペースにて、作家の名前をディスプレイしつつも原稿は「非公開」として保管されています。
原稿が保管されるSilent Room
画像引用: https://www.futurelibrary.no/#/the-artwork
Patersonはこのプロジェクトの背後にある想いを、こう語ります。
Future Libraryの中核には、自然が、生態系が、ものごとのあらゆる連関が、そして今行きているいのち、未来に生まれくるいのちがあります。このプロジェクトは、現在の短期的な時間への執着や今いきるわたしたちのためだけの意思決定、という現在の在り方へ問いを投げかけます。プロジェクトは、宇宙的な時間スケールではなくたった100年です。しかし、100年というのは現在のわたしたちの寿命を超えつつも、濃い関係性に向き合うために、対峙すべきひとつの時間間隔なのです。
ーKatie Paterson
Future Libraryにはとてもロマンを感じます。初めて知ったときにはシンプルに美しいなと感じたものです。しかし、ただロマン主義なプロジェクトではなく、最後の言葉にあるように重要な問題提起でもあります。実際に、今の複雑な世界ではすぐに状況が良くなるとは到底、思えません。「現実的に」考えると100年を見越してプロジェクトを意味づけないといけない。そんな時代なのかもしれません。
おわりに
Patersonが示してくれたような、100年先を見据えた希望の種は少しずつ芽生え始めています。たとえば、秋田市で行われている展覧会「200年をたがやす」や、樹齢200年の木々を育てる「多良岳200年の森プロジェクト」。100年スパンで未来のいのちとのつながりを考えさせられます...!
みなさんのプロジェクトは、100年後の視座でみたときに、どんな意味をもつでしょうか。なんて大きな問いなんだ...と思ったりもしますが笑、でもそれだけ余白に溢れているからこそ、遊び心に富んだ想像ができる。それを楽しんでいきたいものです。
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本メディアWONDERは「あらゆるいのちをケアする想像力」をはぐくむDeep Care Labによって運営しています。こうした100年後の未来への想像力や人間だけに閉じないいのちと、ともに生きるための想像力が触発される学びづくりを行っています。ご興味ある方はぜひお気軽にご連絡ください。
https://deepcarelab.org/