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エピソード(11):Penfield Wと脳の中のホムンクルス

「脳のなかの小人」は多くの方が聞いたことのある非常に有名な話である。
このアイデアを出したWilder Penfield(1891 - 1976)は、てんかん症を脳外科手術で治療を試し、現在に至る脳外科手術手技の基本的発展に貢献した。
 
彼は1930年代ロックフェラーからの資金で、カナダのMcGill大学に神経学研究所を設立した。
Penfieldは、開頭した状態で大脳表面を電気刺激し、その刺激と身体感覚や運動との関連を論文にまとめた(Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation, Brain, 60, 389-443, 1937)。
 
この論文は50ページを超える、脳の刺激部位の詳細な図を何枚も含む論文で、インターネット上でPDFを入手可能である。
この中に脳の運動野領域に対応する身体像としてマンガの身体が載っている。
この図は1947年、現在もなおよく目にする図に改訂されている(本note記事のタイトル図、出典:脳科学辞典、「体部位再現」URL、https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E4%BD%93%E9%83%A8%E4%BD%8D%E5%86%8D%E7%8F%BE)。
 
ホムンクルス(小人)は元々錬金術の時代より始まる。
ヨーロッパのルネサンス期の医師パラケルススが人造人間の作成を記した。
一方、「ファウスト」の中でゲーテもその物語を取り扱っている。
我々の受精から身体の形態形成、誕生までは常に関心の対象である。
 
詳細な脳の刺激研究と単純にまとめた図との乖離が、一般書では少なからず誤解を伴う解説となっているという。
実際に少し考えれば、脳の機能は、外部からの刺激が神経を伝わって、脳の中でそれが何重にも統合されながら実際に知覚となる。
逆に運動を始めるにあたっても、距離の調節や運動のスムースさは、非常に高度な統合の結果である事はよく知られている。
 
人の形をした形態で脳の中に身体機能が存在する訳ではない。
 
 
しかしPenfieldのMappingは大脳皮質領域である。
脊椎動物の進化を考えると、大脳領域の進化以前の知覚系による全身状況を瞬時に把握するマップも存在していただろう。
実際に、このPenfieldのホムンクルス図には体幹部がない。
この体幹部は、一体、身体のどこがモニターしているのか?Body mapはあるのか?
 
しかし一方、ここで述べるような足芯呼吸による身体awarenessの訓練をすると、脳のなかの小人、あるいはbody map(神経学の教科書では、cortical somatosensory mapと記してある)を考えたくなるのもまた事実である。
こうした領域は現在、fMRIなどを用い、より複雑で多様な運動野の研究が続けられている。
 


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