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DeepBody:新規論文から考える⑤ DRG(後根神経節)細胞のgenetic toolkitが明かす体性感覚細胞の形態と生理(2)

(紹介論文)
A mouse DRG genetic toolkit reveals morphological and physiological diversity of somatosensory neuron subtypes(マウスDRG遺伝子工学ツールキットによる,体性感覚神経群サブタイプの形態学的および生理学的多様性の解明)

Cell 187, 1508-1526, 2024、https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.02.006
(本論文はOpen Accessである。当該サイトではGoogle翻訳でも読める)
 
今回は新規論文から考える⑤の2)として、DRGを形成する感覚神経細胞特性に関して、前回の形態的特性に対して、機能面からの解析結果である。
(前回は:https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n57dad120df92
 
実は機能面(具体的には皮膚局所への圧力と温度)に対する反応を見るには、マウスで前回示したscRNAseqによるclusteringで14種の感覚細胞特異受容体発現のうち、12種に関してさらに遺伝子改変操作を実施し、Ca2+センサータンパク質のGCaMP(リンク)を組み込む。そしてマウスの第四腰椎体節のDRGをin vivoでCa2+変化を計測する(Fig. 4. Aに実験設定の図、タイトル参照)。後肢皮膚への加圧実験での実際のデータがFig. 4 Bに示されている。弱い圧で反応する感覚神経細胞群、強い圧を中心に反応する感覚神経細胞群、圧刺激には全く反応しない感覚神経細胞群(2種類:TRPM8+、SSTR2+)が判別できる。

Fig. 4. 圧力空間はDRGニューロンサブタイプの異なる機械的閾値によってタイル張りされている
A.実験設定と右は実際の蛍光反応写真.B.各クラスター感覚神経12種の圧迫力と反応Ca2+蛍光測定記録.C, D.各クラスターの蛍光反応のThresholdと平均値

この複雑な実験系を再度整理すると、この研究の実験設定は:
1)マウスDRGのscRNAseqによる感覚神経細胞clustering
2)各cluster特異遺伝子領域に遺伝子改変操作でCa2+センサー遺伝子を導入
3)in vivoでマウスL4のDRGを露出し、光学測定を実施
となり、20世紀レベルの実験ではない、多様で広い応用可能な方法論と理解できる。
 
Fig. 5では各種加圧レベルと温度レベルの反応が一覧できる。
加圧レベルはair puff(息を吹きかける)という弱いものから、pinchという強いものまで、一方温度レベル変化では5°~55°の間を5°ごとに区切ったものである。Air puffレベルでも反応する感覚神経細胞が3種(Aδ-LTMR、C-LTMR、AδRA-LTMR)存在する。
一方、温度レベル変化ではTRPM8+は5°~25°の低温域で反応し、逆にSSTR2+は40°~55°の高温域で反応している。
興味を引くのは、圧のみならず高温でも反応する感覚神経細胞グループも5種示されている。

Fig. 5. 異なるDRGニューロンサブタイプによる多様な機械的および熱的刺激への反応
A.Caシグナルの強度をヒートマップで表現したもの.左側には圧迫力強度、右側には温度刺激が示される.B.Air puff. C. Stroke.D. Pinchによる各クラスター感覚神経細胞の反応

こちらはさらにFig. 6において、その温度変化によるシグナル強度が細かく示されている。
 
以上の結果を、M(mechanical)、C(cold)、H(heat)と分けて3Dでポリモーダルに図示したものがFig. 7である。
こうして眺めると温度感覚系の受容体を発現しない感覚神経細胞があり、低温系のみの感覚神経細胞クラスターが1種類、高温系は6種類ある。内5種類は圧刺激にも反応しているが、これらは圧受容体であるPiezo 2が存在するとDiscussionで述べられている。


Fig. 7.  DRGニューロンサブタイプの多様性.
各DRGクラスター感覚神経細胞のCaシグナル強度を、M(mechanical)、H(heat)、C(cold)の3軸として図示.A. 圧(力)刺激に反応する4種、B.圧(力)と高温に反応する5種、C.高温、低温にのみ反応する2種.

まとめ
以上、「感じる」とは何かを探索する研究として、感覚神経細胞の詳細な、しかも21世紀的実験を紹介し、他にも応用が利く遺伝子改変用tool kitの意味を説明した。
DRGを形成する感覚神経細胞をClusteringで分類し、個々の形態を遺伝子導入したGFPで染色して解析し、今回はCaセンサー蛋白の遺伝子導入で、感覚神経細胞の力や温度への感度を解析する。
21世紀にはマウスでここまで、しかも正確に結果が出せる。

ここでは分かりやすく「圧(力)」と「温度」あるが、実際には「痛み」や「かゆみ」などの感覚が生まれる。ここに取り上げた個々の感覚神経細胞受容体の情報がどう組み合わされて、中枢で「痛み」、「かゆみ」という感覚として感じるのか?
中枢での末梢感覚の統合という課題がこの先にはある。
 
一方で、Proprioceptionの感覚神経細胞(筋肉(筋紡錘)、関節(GTO)、あるいは皮膚の横ずれ等)の情報は、この論文では取り扱われていない。西野流呼吸法「対気」における相互の感覚として、Proprioceptionの感覚神経細胞情報はどういう求心性経路で中枢に届いていくのか?視床へは届くだろうが、体幹筋群の情報はその上にはどうか?
あるいは筋紡錘やGTOへの刺激に相当するマウス実験系として、何の刺激を設定できるのか、まず実験系を考える必要があるようだ。


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