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DeepBody:新規論文から考える⑦DopamineとNorepinephrineの免疫機能:神経修飾物質の免疫機能?
Dopamine and norepinephrine are embracing their immune side and so should we. Curr Opin Neurosci, 77:102626, 2022. Open access. doi: 10.1016/j.conb.2022.102626
本noteはそもそも西野流呼吸法、ことに「対気」という2人稽古を実践して感覚する、不思議な内部身体感覚をDeepBodyという用語を使って展開している。
21世紀に入り、脊椎動物運動系の研究で初期脊椎動物における前進運動(locomotion)としての左右くねり(undulation)の神経・筋肉システムが同定された。これが対気稽古で体感するDeepBodyの本体と考えられる。
さらにその運動開始指令にあたり、大脳基底核で思いもよらぬ脳内物質(現在では神経修飾物質Neuromodulatorと呼ばれる)ドーパミンが関与する。この事実は最近になり、遺伝子改変や光遺伝学などの高度実験技術により、マウスという哺乳動物においても確認されている。
なぜ今、西野流呼吸法とドーパミンなのか?
DeepBodyの検索から始まったこのnoteでは、ここ数ヶ月ドーパミンを取り上げている。読者は首をかしげているかもしれない。この点を少し説明しておきたい。
ドーパミンは、20世紀後半の薬理学的な狭い領域の研究で、薬物依存や快楽物質など呼ばれて大きな誤解を生んでいる。ところが一方でドーパミン産生細胞が老化で失われるパーキンソン病の研究を通して、ドーパミン神経の経路、脳の中のドーパミン神経細胞が研究されていくと、我々ヒトでは全脳860億といわれる神経細胞のうち、たかだか総数50万個という大変貴重なものであることが判明して来た。
またパーキンソン病で失われる臨床症状は、ドーパミンが持つ運動計画、認知機能などが主であり、ドーパミンの本来の基盤的意味が明らかになってきた。ドーパミンそのものに対して、従来の依存や快楽などの一部の誤解から、我々の再認識が求められるのが21世紀を四半世紀も過ぎた現時点である。
ドーパミンはその化学構造式や合成経路から、もう2種類のneuromodulator、アドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)などとともにカテコラミンと呼ばれる。これは単に科学的な類似物質であるということのみならず、実は動物進化の生命誌的な背景をもつようである。こうしたカテコラミンは、従来はneurotransmitterの名前どうり、神経伝達物質とのみ考えられてきた。しかし21世紀に入り、カテコラミンは免疫系システムとも深い関連性がある研究が始まり、ことに最近になり注目されるようになっている。
20世紀に医学を学んだ老医である筆者には、まさに「目から鱗」の展開である。今回のnoteではこうした全く新しいドーパミン研究の領域を紹介したい。
一点加えておきたいのは、このドーパミンのNeuro-Immune作用を考えると、西野流呼吸法を熱心に稽古する人々が、病気がいつの間にか良くなったという話の解釈である(例えば以前紹介した、リンク)。
医師として、こう発言する皆さんを信用しないわけではないが、それはなぜだろうか、なぜそんな慢性疾患改善にまで効果が及ぶのか?という点が疑念となっていた。
しかし「対気」における全身への刺激としてのDeepBody反応がドーパミンが関与しているのなら、より広範なドーパミン効果、例えば免疫反応効果などを再考する必要がある。
これはいわば「対気反応の医学」という問題でもある。
いいかげんにDopamineの免疫作用を考えようという総説
今回はまず新概念の導入的な総説を紹介する。タイトルは:
Dopamine and norepinephrine are embracing their immune side and so should we(ドーパミンとノルエピネフリンは免疫的側面を受け入れている、我々もそうすべきだ)
というユニークな2022年の総説である。
まずはその総説導入の文章を紹介しよう。
ドーパミン(DA)、ノルエピネフリン(NE)は最近は免疫細胞によって生成、放出、取り組みの事実が示されている。一方DAやNEはカテコラミン作動性神経細胞から放出されてシグナルを伝達する。しかし神経細胞が関与せず、ホルモンのようにオートクリンやパラクリンの伝達様式で免疫細胞集団内のみで作用することもできる(タイトルの図、参照)。
そして「シグナル伝達カスケードにカテコラミン作動性神経修飾物質が存在すると、神経免疫というべきなのか、単に免疫調節というべきなのか?」という問いかけを投げる。
「もういい加減にドーパミンが神経系物質であるという先入観をやめましょう」という呼びかけである。
足三里の灸が、なぜ元気の素になるのか?2021年Nature論文を読み解く
この総説を読んで思い出すのは、2021年のNatureで話題になった足三里の灸はなぜ効果があるのかという論文である(DOI: 10.1038/s41586-021-04001-4)。この論文は以下に貫和の解説があるので参考まで(リンク)。
論文の結果が図に示してある。
![](https://assets.st-note.com/img/1738067809-aYlMkiPbWXpDngxOjBIQ6ZTc.jpg?width=1200)
これを説明すると、まず赤色の求心系では足三里(ST36)の刺激は、感覚神経(Prokr2陽性)を介して、DRGから脊髄を上行し、延髄に至る。延髄の孤束核ではその情報が迷走神経に移り、青色の迷走神経系を介して副腎に戻る。さらに副腎ではカテコラミンが分泌される。このカテコラミンがドーパミン、ノルエピネフリンである。その結果、抗炎症作用となる。論文の実験では、菌血症を生き延びるマウスの割合が足三里刺激で増える。
貫和の解説(上記をリンク)にあるように、足三里は、古くはエジプト・ピラミッド時代のヨーロッパ人で、氷河から見つかったアイスマンの皮膚痕跡に残っている。近くは薬物の高価なアフリカで、モグサのお灸(MOXAFRICA)が使用されている。そして日本の松尾芭蕉「奥の細道」の文章である。
ということは、実はホモ・サピエンスは数千年も以前から経験として、ドーパミンの効果を伝承してきたことになる。
そろそろドーパミンを考え直しませんか?
この米国フィラデルフィア大学の研究者らは2023年、重厚なドーパミンと免疫の総説を書いている。次にはそれを紹介しよう。