DeepBody:新規論文から考える⑤ DRG(後根神経節)細胞のgenetic toolkitが明かす体性感覚細胞の形態と生理(1)
(紹介論文)
A mouse DRG genetic toolkit reveals morphological and physiological diversity of somatosensory neuron subtypes(マウスDRG(後根神経節)遺伝子工学ツールキットによる,体性感覚神経群サブタイプの形態学的および生理学的多様性の解明)Cell 187, 1508-1526, 2024、https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.02.006
(本論文はOpen Accessである。当該サイトではGoogle翻訳でも読める)
今回も「感じる」とは何か、の論文を紹介する。
なぜこうした基礎論文を読むのか?それは西野流呼吸法の「対気」の感覚を考えるためである。
西野流呼吸法というボディワークでは、呼吸とは体幹筋群への働きかけである。背伸びに見られるように身体のストレッチであり、必ずしも空気を多く取り込むことを意味しない。
体幹筋群はなぜ重要か?
直立した我々人間は、体幹を抗重力的機能と考えがちである。
しかし進化に戻ると、脊椎動物の祖先ヤツメウナギは、左右クネクネ運動で前方へ進む。その推力を生み出すのが体幹筋群である。
こう考えるとDeepBodyとしての体幹筋群は、進化上、前進運動機能を持つ基盤機構と分かる。
西野流呼吸法では、基礎の「足芯呼吸」でこの体幹筋群にアクセスする。
加えて「華輪」などでこの体幹筋群に、捻りストレッチを呼吸とともに加え、現代生活で硬直した身体に緩みを与える。
次いで「対気」で手の甲を接して、相互にこの緩んだ体幹筋群にアクセスする。その結果、体幹筋群運動(錐体外路系運動)が誘発される。
西野流呼吸法を習うと、DeepBody感覚を持って日常を生きることになる。
この「手甲で相手を感取する」とは、具体的にはどんな情報を受けているのだろうか?
この点をこの新規論文シリーズとして、まずDRG(dorsal root ganglia)とは何であるかを一般的に説明した。
URL:https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n3c3cb419b218
さらにこのDRGを形成する細胞群は、常識で言う外胚葉系ではなく、脊椎動物では第4の胚葉ともいわれる神経堤細胞(neural crest)から形成される。
ここにも脊椎動物進化上の不思議が存在する。
これらは、前回新規論文として紹介した。
URL:https://note.com/deepbody_nukiwat/n/n04ca3fe5af72
今回はこのDRG細胞が、多様な形態、多様な受容体からなる細胞集団であることを、さらにはそれらがいかなる物理事象を受容しているかを、エレガントに示した米国Harvard大学のグループの論文を2回に分けて紹介する。
恐らく論文タイトルを見ても、私自身内容が想像つかなかった!
しかし内容を読むと、マウスを使ってここまで神経科学研究ができるという驚きの論文である。
まずは簡略に方法論を述べると:
1)マウスの脊髄近傍のDRGを数100集め、それを構成するpseudo-unipolar神経細胞を単離する。それを使ってscRNAseq(単細胞RNA発現遺伝子解析(scRNAseqに関してはWikipedia英語版(URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Single-cell_transcriptomics)をGoogle翻訳して理解してください))を行ない、数理解析処理で17種のcluster groupに分ける。
2)各cluster groupの遺伝子発現を勘案し、代表的遺伝子を同定し、その遺伝子近傍に遺伝子改変用配列を組み込み、genetic toolsとする。分子生物学的研究としては、このtoolとしての意義が大きい論文で、今後このtool部分に多様なマーカー遺伝子を組み込み、次の研究展開が期待される。
3)マウス皮膚組織を染色して、scRNAseqでcluster化された細胞群の形態を調べる。
前半の方法論はここまでである。後半では各クラスターDRG細胞の生理機能が検討される。
具体的には
・図1.ではscRNAseqデータの数理解析処理によるclustering結果を用い、そのclusterで発現の目立つ遺伝子を選ぶ。次に組織形態研究用マウスに対して、当該遺伝子近傍にAAVベクターで蛍光タンパク質GFPの遺伝子導入をすると、DRG中にその細胞が染まる。
実際に遺伝子操作対象になる受容体特異DRG細胞群14種の一覧表が表1.である。
図2.では、マウスの皮膚切片を使ってGFP染色 し、その形態を実際に可視化し、面積や樹状突起dendritesの分枝形態を示したものである。
頻出する略押して、LTMRs(low-threshold mechanoreceptors)、HTMRs(high-threshold mechanoreceptors)、FNE(free nerve ending)等がある。
自由神経終末のDRG細胞は生理的にHTMRsのものが多い。しかもこれらは樹状突起の分岐や面積が広い。
図3.一方で脊髄灰白質部分において神経細胞を乗り換え、Afferentとして感覚情報が中枢へ上行する。その脊髄内灰白質のレイヤー別にDRG神経細胞の端末を染色して示している。
・温度に関連するものはlayer 1が多い。
・LTMRsはlayer 2から4に分布している。
これらのデータは、過去に電気生理的実験で一部は示されていた。
実際のDRG細胞集団の種類、形態、機能が総括的にgenetic toolsとして、こうして示されることは、驚きである。
同時にこのtoolを使っての研究展開が期待される。
次回はこれら受容体の特性を機能的に解析すると、各クラスターに含まれる神経細胞の受容体の生理特性がいかなるものかが姿を見せる。
Harvard大学のGinty DDのグループは、このgenetic toolkitを使って次々と研究展開しているようである(PubMedリンク)。2024年には、このCell論文以外に、マウス性器感覚に関与するKrause小体の解析をNature誌に報告し、それ以外にも興味あるタイトルがbioRxivに投稿、査読中で、目が離せない。