レイリーさんみたいな
半年以上、ずっと(直さなきゃなぁ)と思っていたスカートをお直しに出す為、先日青山の仕立て屋さんに初めて行ってきた。
駅前のお直しチェーン的なお店で直しても良かったのだが、スカートのウエスト詰めという見た目に直で響く作業は、ちょっと良いお店に頼みたいなぁと思い、調べて伺ったのだった。
まず、立地の時点でビビっていた。
原宿駅から徒歩10分以上の青山なんて、私みたいな人間はまず縁の無い場所である。
原宿のガヤガヤとした賑やかな明るさでもなく、表参道の肩肘張った洗練でもなく、
「えっ普通に生活してますけど?」顔の普通の住宅が並ぶ高級住宅街、青山。
街に馴染む普通のビルの2階に上がると、超絶お洒落な空間が広がっていた。
POPEYEじゃん。
マガジンハウス編集長の部屋じゃん。
所謂「モテ」とか「女ウケ」とかの延長線上にある浮ついたオシャレとは一線を画した、無骨で、洗練されていて、生活感が無いのに仕事感があって、職人気質も感じる小さな空間に、私は圧倒されて怖気付いた。
いいのか。
古着で6,000円で買ったスカートを直しにきていいのか。
オダギリジョーみたいなカッコいい店員さんが笑顔で
「どうぞ、あちらの椅子でお待ちください!」
と優しく案内してくれる。
いいのか、座って。
その革張りの1人用ソファーに。
4年履いてるZARAのパンツで座っていいのか。本当に。
だが小さなお店の中で1人だけ突っ立ってるワケにもいかず、勧められるがままに座って待っていると、白髪混じりの髪を後ろでピシッとまとめた初老の男性が、お客を品定めするでも無くとても丁寧にオーダーを聞いてくださった。
レイリーさん!
レイリーさんじゃん!!
その初老の男性は、礼儀正しく丁寧ながらも、
圧倒的に覇王色が使えそうな気迫に満ちていた。
そしたまた、その上品な気迫と職人としてのプライドを感じさせる雰囲気に私はビビった。
着慣れたジャケットに首に掛けられたメジャー。
上品なのにざっかけない感じでまとめられた髪。
その男性と働くのは、リラックスしながらも恐らく尊敬しているのだろうという雰囲気のオダギリジョー。
敵わない。
お洒落さやファッションセンスは勿論のこと、
明らかに自分の半分ぐらいしか生きていない若造に対する丁寧さや、仕事に対するプライド。
そしてその全てにリラックスして馴染む出立ち。
レイリーさんに対して完全に人間としての差を感じて怖気付いた私は、一度お直しする服を着て仕立てを考える段になって、変なタイミングで
「あの、着る前にお手洗行ってもいいですか?」
と聞いてしまった。
すると、タイミング悪くオダギリジョーがお手洗いに入っており、レイリーさんが声を掛けてくれた。
そしてお手洗いから出てきたオダギリジョーは
「急いで来ましたよ?笑」
と、とっておきの爽やかな笑顔で私に小粋な冗談を投げかけてくれる。
完全に勝手に萎縮した私は、
「す、すみません!」
と、一番面白く無い返しをして、お手洗いに逃げ入った。
薄暗くも清潔感のあるお手洗い。
お香のお洒落な香り。
たくさんのショップカード。
小粋なビンテージっぽい小物。
なんかブランドの名前がわかんないけど顔がない高そうなクマのオブジェ。
「無理かもしれない。」
私はお手洗いの中で一人で弱気になり、気づいたら戦ってもないのに負けを認めていた。
完全なお洒落に圧倒され、心をへし折られたのだった。
結局お願いしたスカートのお直しは完璧で、本当にレイリーさん達に頼んで良かった。
次もまたレイリーさん達に頼みたいのだが、
「仕立て屋に行く為の洒脱な一軍服」を作らねばならないと思っている。