詩『electric sheep』
手札を選んだのは紛れもなく此の指だ
組成を変えようと保存される質量の中で
暖かな光が朧げに溢れた部屋を見上げる
輪郭のない陰影が貴方を縁取る。
機械人形も同然の生活には
冷ややかな電気羊の夢がつきもの
投影された映像は作為的妄想だ。
床上で砕け散る陶器と珈琲の飛沫が
放物線を描く様を言葉にできない苦しみ
誰にも教えたくない謎解きの答えみたいに
淡い色彩でゆらりと凪ぐ心模様。
踏切に飛び込む二秒前の緊張感と
無限小数を数える確かな虚無感は今
交錯して解けていく新しい朝陽を前に。
稲妻を最大限に震わせて頭は空っぽのまんまで
機能不全の現在地から駆け出すのはご法度だろうか。
機械人形も同然の生活には
冷ややかな電気羊の夢がつきもの
造り物の銀河模型に棲む孤独を
もういちど始めるための嘘を。