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台湾の恋の神様

20代最後の冬休み、ユキオクレ仲間の同期イズミに誘われて、二人で台湾旅行をした。

イズミは「20代でなんとしても嫁に行くわよ」と、まずは霞海城隍廟にお参りよと鼻息が荒かった。

なんでも台湾随一の恋愛成就のパワースポットで、台湾全土はもとよりアジア各国から参拝者が途切れないのだとか。確かに若い子で混雑していた。

金紙と線香を買って、ガイド役のお婆さんについて行ったら、神様の前で好きな人の名前を唱えてお祈りをしろ、という。

不毛な恋に終止符を打ったばかりで、特に好きな人はいなかった。お婆さんは、じゃあこういう人と結婚したいという男性像を思い浮かべなさいと、神妙な顔をしている。

「誠実で、優しくて、よく笑う人。あっ話も面白い人でお願いします」とごにょごにょやっていたら、隣から「三井物産か電通の人でお願いします。三井物産か電通の人でお願いします。三菱商事でもいいです」と聞こえてきた。

おもわず、吹き出しそうになった。

廟を出て、「三井物産とか電通って、台湾の神様にわかるかね」と言ったら、イズミはバカにされたと感じたのか「じゃあハナコはなんて祈ったのよ」と。

「えっ、誠実で優しくて~」と言ってる途中に、フンと心から軽蔑したような顔をして「はっ、あほらし。男は経済力よ」という。さすが現役でT大出た女は違うわ、と妙に感心した。

だけど、その「はっ」とか「フン」みたいな見下した態度がえらくカチンと来て「じゃぁ、どっちが先に嫁に行くか勝負しようじゃないの」と。

お互い、こいつには負けんぞメラメラメラ~みたいな雰囲気で、その後の3日間は、些細な事でずっと喧嘩していた。初日にあんなとこ行くもんじゃありませんね。

31歳くらいのときに、同期のシズちゃんの結婚式に参列した。お相手は官僚で優しそうな人だった。イズミったら親族もたくさんいる式場で「うわぁ、あんなのと結婚するくらいなら一生一人でいい」と、トンデモナク失礼なことをいう。夫婦共通の友人がいるというイマダの旦那さんのことは、「イマダの旦那、かなり評判悪いよ」と噂する。

コヤツをどうにか懲らしめてやろうと、自分じゃギャフンと言わせられないもんだから、同期の結婚を借りた。

サトちゃんが結婚したとき、イズミが「ねぇ、サトって誰と結婚したの?」と聞きに来たから、「新進気鋭の建築家。イケメンで優しいの。サトにベタ惚れ」と言ったら、ぐぬぬぅと悔しそうな顔をしたからしてやったりと。胸がスカッとした。ホントは独立したばかりで、サトちゃんは二馬力じゃないとやってけないとボヤいていたけど、そんなことはおくびにも出さなかった。

イズミもいい加減学べばいいのに、同期や後輩が結婚するたびに私に聞きにくるもんだから、その度にちょっと話を盛って、彼女の悔しがる顔を見て、シメシメと。私もたいがい性格が悪いのである。

こんなことをしているうちに、あっという間に20年。お互い婚期は完全に逃し、おひとり様街道驀進中である。台湾随一の恋の神様も、私たちには付き合ってられんと、呆れられてしまわれたようなのだ。

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