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天敵と師弟愛と
スーパーでの早朝の品出しパートも4か月目に入った。課長さんから「ひとり困ったさんがいる」と聞いてはいたけれど、つつがなくお勤めしてきた。
初対面のときから「困ったさんってこの人かな?」と思う奥様はいた。温和なサイトー師匠がときどきこの奥様の言うことを聞こえないふりしていたから。
私も「小うるさいなぁ」と感じることはあったけれど、この程度なら許容範囲。可愛いもんじゃ、こんな低賃金(失礼)なのになんてまともな職場なんだろう、さすが採用時にテスト受けさせるだけあるな、と感心していたのである(ナゾの上から目線)。
というのも、肉体労働の短時間パートなのに結構ちゃんとした性格診断テストをしたから。品出しで性格検査!と驚いたのだ。そのお陰なのか、みなさん驚くほど親切。幅広い年齢層の多種多様な個性の人たちが自分たちのペースで働き、自然にフォローしあっていて、素晴らしいなぁと。
流通としてはもちろん、これだけ落ち着いた職場環境を整え、これだけの人数の雇用を生み出すなんて、多方面から日本を支えている立派な企業だなぁと、俄然このスーパーのファンになってしまったのだ。
あっだんだん話がズレてきた。そうそう天敵。
師匠が華麗にスルーしている奥様が最近やたらとウザいのである。
「ハナコさん!自分の担当の準備するんじゃなくてまずは他の人のカートも運んでください!」と怒るから、次の出勤日は他の人のカートを先に運んだら「他人の準備してないでまずは自分のカートの準備してください!」と真逆のことで怒ってる。こういう人はいちゃもんつけることに存在意義を見い出してるんだろーなぁと。傍迷惑なことこの上なしである。
ことは卵係を拝命した日におきた。
スーパーの卵売り場というのは、ご存知のようにこんな感じなのだけど
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開店前に毎朝、卵係が全て上から古い日付順に並べ替えている。カート1台あたり200パック。
職場は大型店なのでこのカートが5台並んでいる。2時間ちょっとで1000パック動かしている計算になる。
奥様が私に「店頭に並べるから6台目のカートを作れ」という。
「6台なんて見たことねーぞー」とイラっとしたけど、ここでは「はい、はい」と聞いておくのが鉄則というサイトー師匠の教えに従う。
6台目候補のカートは、1~3段目がほぼ空で、4段目はびっしり卵が詰まっていた。
奥様はこの卵を全てを1段目に上げて、バックヤードに荷解きせず置いてある7台目のカートを持ってきて、そちらの2〜4段目をこの6台目の2~4段目に入れ替えよと命令してきた。
4段分計200パックの大移動である。
かぁぁ〜 めんどくさ〜。
絶対に5台目が今日中に売り切れるなんてことはないのだから、いくら6台目にキレイに並べても、明日はまた1から積み直しである。アホらし。
まぁでも仕方ない。「はい、はい」が大事だもんな。後で時間が余ったらやってやるかと、5カート目が終わった段階で、もう一つの担当のゼリーの品出しに移ったら。
「ハナコさん!卵売り場から離れたのはどうして?先に卵を全部終わらせて頂戴」と、奥様が瞬間芸のようにすっ飛んできた。これにはイジワル婆さんもびっくりである。
はたして、奥様の目は輝いていた。
その輝きに「こいつ絶対にイジワルしている」と確信した。
仕方なく卵売り場に戻って、入れ替えるかと卵の日付をよく見たら6台目も7台目も一緒だった。
だから、店頭には荷解きしたばかりの7台目を陳列して、バラバラの6台目は、明日の品出し用にそのまま裏の保管庫に戻した。所要時間2分であった。
すると奥様がまたすっ飛んできて「ハナコさん!入れ替えてって言ったでしょ」という。
こやつは一体全体、どっからタイミングよくすっ飛んでくるんじゃ?とおもいつつ、「日付一緒なので7台目を店頭に、6台目を在庫にします」と言ったら、まさか日付が同じとは思わなかったのだろう、スゴスゴと持ち場に帰って行った。
「勝った」と内心ガッツポーズしていたら、サイトー師匠がサササっと寄ってきて「やりましたね」と囁いた。
「えぇ、負けませんわ」と返したら「さすがです」と褒めてくれた。
こちらも気をよくして「師匠のお蔭ですわ」とお礼を言ったら、彼も満足気だった。
秋の深まりとともに、師弟愛も一段深まったのである。