見える、私にもビンボー神が見えるでー
カナちゃんと久々にランチした。会うのは二年ぶりだったけど、昨日もお茶したみたいに話せるから、学生時代の友人ってすごい。
ひとしきり近況を報告しあった後、カナちゃんはご自慢の息子くんたちの話を始めた。
カナちゃんは子どもたちに、勉強しろと言ったことはないそう。ただ、学生時代より大人になってからの方がずっと長いから、やりがいのある仕事に就けるように先を見据えて今を過ごせ、決して母ちゃんのようになるなと口を酸っぱくしていい続けているんだそう。
上の子は学者肌で下は真逆でね、と話していたと思ったら唐突に、「ねぇ、ハナコから見て、私って何に向いてたと思う?」と聞いてきた。
えー、アドリブで切り返すのは弱そうだけど、働き者だからなぁ。「教師とアナウンサー以外ならなんでも大丈夫そう。学芸員か経理かな」
「実はさ、こないだ息子たちの運命をシチュースイメイに」
聞いてねぇ~。カナちゃんは人に質問しておきながら、私の回答なんて全く聞いていなかった。
シチュースイメイってのは誕生日で占うらしい。「息子たち二人ともなかなか強運の持ち主でさ。良かったよ、あの日に産んで」とかなんとか、悦に入っている。
産み日なんてコントロールできるんかい、と半ば呆れながら「カナちゃんさぁ、昔、手相のおばさんに習字かお花をやれって言われてたじゃん。ちゃんとやってる? 還暦までカウントダウン始まったよ」と言ったら、「そんなこと言われたっけ?」とキョトンとしている。
「はぁぁぁ? 何言ってんの!『あんたは貧乏の相が出てるから、60過ぎたら家で人に何か教えられるように今から稽古しろ』って言われてたじゃん」
「えーそうだっけ。でも、その占い師、凄いわ。確かにビンボーだわ。最低賃金で働いてるし。あのハナコに晩婚て言ってたおばさんでしょ?」
肝心の自分へのアドバイスは忘れて、こっちの晩婚は覚えとるんかい。
それより聞き捨てならないのは、貧乏の相が出ていると忠告されたのに最低賃金? まったくもって手相を観てもらった意味がないではないか。
聞けば、休みたいときに休めるを最優先にしているので、給料は度外視でカフェで働いて7年目。扶養内で社会保険には加入しない働き方をしているんだそう。OMG。働き者であることが一番の美徳のカナちゃんは、薄給と嘆いていた職場の同僚と結婚したのに、週に15時間しか働いていなかった。
「ちょっとカナちゃん、放っておいてもトーダイ行きそうな息子のことなんて占ってもらってる場合じゃないで? そのシチュースイメイとやらに、自分にまだビンボーの相が出ているか聞いてきなはれ。だいたいお習字はどうしたん?」
習字はやってないけど、お茶はやってるという。
「だけどさ、とてもお茶を人様に教えるのは無理ねー。お茶のお免状って、あれはお金がモノを言う世界なのよ。茶器とかもさ、目ん玉飛び出るし。だいたいうち、和室ないし」
「はぁぁ、呆れた。カナちゃん、見える、私にも見えるでぇ。ビンボー神様があんたの肩に乗っとる」
カナちゃんは「えー、酷い〜」とキャッキャしていた。
笑いごとではないでカナちゃん。手相を観てもらってからもうすぐ干支が二周りする。だけど、平均寿命まではあと三周りもあるのだ。そのうち元気に働けるのは何年か。息子に学生時代より大人の時代の方が長い、先を見据えて今を過ごせなんてハッパかけとる場合じゃない。
人様に余計な口は挟まないをモットーに生きてはきたが、お節介なのは重々承知の上で、ここは友として言わねばならん。
「カナちゃん、あんたはあの手相観のおばさんの能力をなめとる。私を見てみぃ。結婚線はなくとも子どもの相。当たっとるやろ。あんた、ビンボーの相って言われたんよ。ビンボーの相。なったら困るやろ。全力で回避しぃや。社会保険にも加入できない最低賃金のカフェで働いていいのは、学生とお貴族様だけや。いくらトーダイ出てても、ビンボーな姑がもれなくついてきたら、ご自慢の息子も縁遠くなるで」
するとカナちゃん、ハッとした顔をして、「確かにそうだわ。ねぇハナコから見て私って何に向いてると思う?」と再び聞いてきた。
「知らんわ。そもそも50のおばちゃんに選択肢があるのかもわからん。ただとりあえず社会保険に加入できる最低賃金以上をくれる職場を探すのが先決や」
カナちゃんはさっそくスマホで家の近所の求人を検索しだした。が、すぐに飽きたみたいで「あっ、さっき言ったよく当たるシチュースイメイ、ここなの」と見せてきた。
ちょっと会わぬ間に、カナちゃんはおばちゃん化が進むとともに、ビンボーの階段を着実に1段登っているように見えた。まぁこちらも負けじとおばちゃん化が進み、結婚からは程遠い位置にいるが。
あの手相観さんやっぱりすごいわ。
35年来の友の老後から目が離せないお節介ハナコ、50歳の初夏であった。
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