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豆腐並べに思わぬ適性を見出す
今月から、運動不足解消を兼ねて近所のスーパーで早朝の品出しをしている。
仕事は、豆腐並べ係を拝命した。
賞味期限の近いものを手前に、それ以外を後ろに、ひたすら並べていくのである。余ったら、冷蔵室にしまいに行く。
豆腐なんて、これまで国産大豆100%か否かしか気にせずに、目についたものを買っていたので、世の中、こんなにも多くの銘柄があったのかと。
「風に吹かれて波乗り屋ジョニー」だとか「信吾港町」とか、まぁあなた豆腐でしたか、というような商品名に、差別化にかける企業努力の涙ぐましさを感じる。(どちらも同じ会社のものだったけど)
研修では、大変ですよと何度も脅されたので、続くかしら、と心配していたのだが、天職かもしれんというほどハマった。とにかく無心になれるのだ。3時間があっという間である。一仕事終えて、早朝の街を自転車で走るのも気持ちがいい。
指導役のイソザキさん(推定年齢63歳のおばさま)に「新人でこんなに上手い人はなかなかいない」とおだててもらいながら、お客様に手に取ってもらいやすいようにと、工夫しながら並べていく。ピタッと一つの欠けもなく豆腐が並んだときの爽快感たるや。
勤務時間が終わったら、次の出勤日まで、仕事のことは全く考えなくていいというのもすごくいい。
イソザキさんはお話好きなおばさまで、「どこに住んでるの?」から始まって、「お子さんは小さいの?」「まぁ中3。受験生なのね、教育費が大変でしょう」「まぁ、私立。どこまで通っているの?」と矢継ぎ早に尋ねてくる。
こんなに色々聞かれたら、今月末にはもう質問することがあらかたなくなって、出生時の体重とか母の旧姓を聞かれるんじゃないかなぁ、なんて思ったり。彼女、週刊誌の記者だったら優秀だろうな。
課長さんというのも面白い人で、「AチームとBチームがありまして。どちらも1人ずつ困ったさんがいるので同じです」なんていう。
「どう困ったさんなのでしょう?」と聞いたら、並べ方に独特のこだわりがあるんだそう。どちらの並べ方でもいいのだけど、ご自分のこだわりを他人にも強要しちゃうのだとか。
「この二人の困ったさんを同じチームにしたら上手くいくんじゃないかと試したのですが、困ったさんと困ったさんを掛け合わせると、ものすごく困ったさんになりまして。以来、二人は離しています。まぁ、困たら僕に言ってください」
期待した歩数は3時間で4387歩と少なかったけれど、なかなかいい職場である。