PUNTA DEL ESTE
・紫色の夕暮れが空を染めるころ、海の向こうからやってくる鳥たちの影が歌いだす。
――俺たちはどこから来たのか?これから何処へ行くのだろう――?
黒い雨雲が、降りそうで降らない雨を予感させるとき、明日の嵐を気にしては護岸で風を見る老いた男。
不吉な予兆にしては心地よい風のぬるさ。
彼のソフト帽はそのまま風に持ち去られ、
二度と陸へ上がることは無いだろう。
・オリーブの低い木々が壁を作る。羊飼いは俯き加減で向こうからやってくる。今にも時間が止まりそうな足取りで。
実際、時間は止まっている。ただ風だけが、見えない風だけが止まった時間を運んでいる。
羊飼いの過去には、優しい思い出もあった。優しい思い出はゆっくりだ。それを思い出しては時間は止まり、過去へ逆戻りしそうになる。
一番の思い出は、やっぱりオリーブの並木道だった、これまでも。多分これからも。
祖父がまだ生きていたころ、この道はもっとずっと生命力に満ちていた。数々の虫や、色とりどりの花が野原を彩った。
今や羊飼いの目に映るのは、くたびれた道の轍と、一人ぼっちの自分の影だけだ。
風が黒い空気を運んでくる。今にも降り出しそうな、砂の匂いがする。
降るなら降れ!そう強がってはみるものの、今一つ意気地が足りなかった。
しまいには本当に雨粒が頬を打ち始め、かと言って本降りになりそうな気配は一向に見えない。羊飼いは未来の予感を感じた。それは今と変わらない、永遠の未熟な自分の未来だ。永久下降音階が彼の思考を奈落へ呼び込んだ・・・。
雲は去った。祖父が現れた。陽の光が草原を照らし出した。オリーブの並木が、初めからあった道を照らした。
羊飼いは、慌てて止まっていた時を動かし始めた・・・。
・夜は暗かった。雨でも晴れでもない夜は、いつも皆の心を妖しくした。
眠るにねむれない大人たちは、恰好のアジトを見つけようと藻掻いていた。
周りが海に囲まれたこの町では、いつも人は海岸へといざなわれた。
こんな夜は、誰も示し合わせていないのに、いつも大人たちが集まるものだ。
大人たちは皆口には出さないが、考えていることはいつも一緒だった。
――俺たちはどこから来たのか?これから何処へ行くのだろう――?
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