江戸・明治に学ぶ、心豊かなシンプルライフ
1. 日々を楽しんでいた人たち
みなさんは江戸・明治時代の暮らしに対して、どのような印象をおもちでしょうか? スマホも自家用車もない時代です。
幕末から明治初期に来日した欧米人の第一印象は〝この国民はたしかに満足しており幸福である〟ということでした(『逝きし世の面影』渡辺京二)。
上の写真(1896年、お花見の一行か旅芸人一座?)のタイトルは
「歌が絶えない、幸せな日本」 (Happy land of the rising sun, where song unceasing flows、 https://www.loc.gov/item/2020637415/、” Land of the rising sun”は日本の別称なのです)。
日清戦争(1894~1895)直後の写真なので割り引く必要はありますが、産業革命が進み厳しい工場労働が当たり前になっていた欧米人から見ると、当時の日本人は陽気で(お気楽で?)幸せな人たちだったのだと思います。仕事をしている時も、旅をしている時も歌っていたそうですよ。
では、当時の人たちを陽気にした「日々の楽しみ」は何だったのでしょうか?
2. 江戸・明治時代の人たちの五つの楽しみ
当時の日本人の85%は農山漁村で暮らす人々でした。あれこれと調べた結果、私がたどり着いたのは下の図にある五つの楽しみです。
○ 働くことが楽しみの中核
「そこかよ!」と思われるかもしれませんが、「働くこと」が楽しみの中核だったと確信しています。子どもも、老人も、それぞれに適した仕事をし、家族や社会に貢献して感謝されていました。
いまの勤め人との決定的な違いは、
①自然のなかで、
②家族や仲間といっしょに働き、
③目に見える成果を得ていた
ことです。魚を釣り上げたり、稲を育て米を刈り取ったりと。
「働く」理由には、生活のために「稼ぐ」ことだけでなく「楽しみ」があったのです。
○ 集まる楽しみ
仕事のあとは、余暇の時間です。
何をしていたかというと、とにかく集まりました。集まって、しゃべって、食べて、飲んで、歌ったのです。村には飲食店がほとんどないので誰かの家で集まりました。安上がりですよねえ。
年中行事やお祝いごとなど、機会を見つけては集まっていました。ご近所さんとのつながりが強すぎて、孤独死はできませんね。
○ 旅する楽しみ
仕事も日常生活も遊びも村の中だった当時の人たちのいちばんの楽しみは、村を出て旅をすることでした。行き先は社寺か温泉。なぜに?
通行手形には旅の行き先と目的を書く必要があったからです。信仰(社寺参詣)や治療(湯治)を旅の目的にすると、お上でも反対できませんからね。
手形をもらってしまえば、こっちのもの。寄り道たっぷりの旅でした。
お伊勢参りのついでに京都まで行くのですよ、歩いて。
当時の旅は危険が伴うので、ほとんどがグループ旅行。宿では三味線を弾いて歌って按摩さんをよんで、にぎやかな旅でした。旅仲間がいるのが楽しみを倍増させるコツですね。
○ 趣味の楽しみ
余暇の時間には趣味も楽しみました。私たちのように、映画を見る、食べ歩きをする、というお手軽なものではありません。
詩作や植木づくりなど、時間をかけ技能を磨いて楽しむのが当時の人たちの鉄板スタイル(というか、それしかない!)。お金をかけなくてもモノがなくても楽しめる趣味はいろいろとあるものです。
○ 性愛の楽しみ
性愛は私たちとは異なる倫理観のもとで、大らかに楽しんでいました。「純潔」という倫理観が入ってきたのは西洋文化とキリスト教が再上陸した明治中期です。それ以前は性に対し寛容だったのです。夜這い、とかね。ここは真似ると犯罪の危険性ありです。
<なかじめ(中〆)>
意外かもしれませんが、江戸・明治時代の人たちは、陽気に日々の暮らしを楽しんでいました。
モノやサービスは今と比べると無いに等しく、シンプルな暮らしでしたが。
彼ら彼女らの暮らし方・楽しみ方を知ると、お金に頼らなくても人生を十分に楽しめる方法、そして、あなたにあった方法が見つかるでしょう。
多くのモノとサービスを手に入れた私たちは彼ら彼女らとそっくり同じシンプルライフには戻れません。しかし、楽しみ方のスタイルを真似ることはできます。
このnoteがお役に立てそうなのは、次の皆さんです。
● 時間はあるけど、お金はあまり使わないで人生を楽しみたい人
● 時間・情報・モノに追われる生活をやめ、シンプルな生き方を求めている人
● 自然豊かな環境で暮らしている人、あるいは、暮らしたい人(ミニマリストやサステイナブルな生活を目指している人も)
● 定年後の暮らし方を考えている人
「遊びをせんとや 生まれけむ 戯れせんとや 生まれけん」、せっかくいただいた命を楽しみましょう。
3. ちょっと自己紹介を
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
私は1959年生まれ、勤め人時代はエンジニアや研究者として働いていました。コスパ・タイパが息苦しくなってきた55歳頃に、ふと「交通機関も情報通信も、便利なモノなどなかった江戸時代のふつうの人たち(=農民や漁民のみなさん)は、何が楽しかったのだろうか?」という疑問が湧いてしまいました。大学は理系でしたが、日本史好きの血がさわぎだしました。
それから、昔の日記・写真・民俗学の本・昔の道具類や衣類などを見ながら、私の祖父母の行動や話を思い出しながら、彼ら彼女らの楽しみ方をさぐっています。それと同時に、いまを生きるヒントを探しています。これがいまの仕事【昔の楽しみの研究家】です(ボランティアガイドや日本語教師としても活動していますよ)。
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下の出版社のnoteでは「第1章 どうする定年後、あなたは何してる?」が公開されています。
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