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江戸・明治に学ぶ、働く楽しみ(家族と仲間と、しゃべりながら歌いながら働く)

江戸・明治時代の人たちにとって、「働くこと」は稼ぐだけでなく、日々の楽しみの中核だったと私は確信しています。彼ら彼女らの働き方は、私たちの多くとは異なり、①自然のなかで、②家族や仲間といっしょに働き、③目に見える成果を得るものでした。
ワークライフバランスではなく、ワークもライフも楽しむのが江戸・明治時代の人たち流。この記事では、家族や仲間と働く様子を紹介します。
(ヘッダーは宇治の茶摘みの写真、茶摘み歌が残っています。子どもも働いていますね。)



1.人力の時代、いつも誰かが近くにいた

ITどころか、動力機械が水車ぐらいしかなかった時代、人力が頼りでした。
人々は家族や仲間と力をあわせて働きました。ひとりで黙々と仕事をすることが少なかったのです。
漁師や農民はもちろん、工房の職人にも、天秤棒を担いで物売りをする人にも、働く場所には人がいました。


2.おしゃべりしながら働く人たち

仕事中のおしゃべりは活発でした。

綿が育たない丹後地方(京都北部)では、農婦たちが雪に閉ざされた冬に藤蔓を裂いて繊維をつくり、撚(よ)って糸にしました。
その糸を織り、春に町へ売りに行ったのです。

寒いなかでの単調な作業でしたが、おしゃべりをしながらの作業は楽しみだったと語っています。(出所は下の展示パネルの説明文。その下の写真は藤織=製品です)

藤蔓からの糸作り、生地作り
藤蔓を使った製品。シックですね。


田植えのときもおしゃべりをしました。

田植えは新しい絣をおろして集団で行うハレの行事。重労働であり、自家の田植えが遅れると他家から手伝いが来るので、迷惑をかけまいと忙しい仕事でした。でも、沈黙の労働ではありません

女性たちはたわいない話(田の神様が下からのぞいているぞ、など)をしながら、そして、苗を運んでくる男性をからかいながら植えていたのです。

田んぼのそばでは、太鼓を叩いて歌い、音頭を取る人がいました。それが仕事の効率を上げたのです。歴史の教科書に載っている田楽は中世の行事だと思っていた私はびっくり仰天。

田植えは村人の共同作業ですが、他村から手伝いにくる早乙女さんも加わりました。
男女の出会いの場でもあり、田植えの後の早苗振(打ち上げ)はご馳走がでる楽しい会だったそうです。経験者からうかがいました。

苗床での準備作業? Beginning the cultivation of rice,Japan(1900) https://www.loc.gov/item/2020637907/

もちろん、今では歌も太鼓もありません。田植え機を使って一人で行うので、農家の知人は「車に乗っていれば終わっちゃうからねえ」と言っていました。

田植え歌は、田植え機が導入される前に歌われなくなりました。縄や板で線を引き、決められた場所に苗を植える「稲苗の正条植」になった時になくなったのです。

“田植がたのしみで待たれるような事はなくなりました”
“田植のような労働が痛苦として考えられはじめたのは事実である”

宮本常一[1960]『忘れられた日本人』未来社

正条植で稲の収量は大幅に増え、政府は推進しました。良いことです。せねばなりません。

しかし、タイパが上がった結果、労働のささやかな楽しみが失われたことは覚えておきましょう。楽しむことが、あなたの人生の目的ならば、多少の無駄は大切かもしれませんからね。


3.歌いながら働く人たち

今は聞く機会が少なくなった民謡ですが、仕事中の歌が多いです。

今では機械化された単調な仕事の時に歌われました
茶摘み歌、糸繰り歌、臼引き歌、舟歌・・・。馬子唄は別として、集団労働で歌われることが多いのです。

ご当地の仕事歌を集めたサイトもあります(仕事唄 - おうみのさとうた(民謡) in おうみのふるさと物語)。蛍問屋があった滋賀県では、蛍狩り歌もあります。

幕末から明治初期に来日した西洋人は、日本人が歌いながら仕事をすることに驚きました
横浜で杭打ち作業を見たモース(大森貝塚の発見者)は、「9割の時間は歌うことに使われている」と呆れています。

人力による日本の杭打ち。多くの作業者が加わることで、軽い仕事になる(東京、1906) https://www.loc.gov/item/2020634198/

杭打ちのときには地搗唄を歌い全員の息をあわせました。
音頭取りが「おかちゃんのためなら」などと歌うと、作業員が「エーンヤコラ」などと続けながらおもりを引きあげ、最後の合図でおもりをドスンと落として杭を打つのです。

私は古写真を見るのが好きなのですが、日本のことを「歌が途絶えない、日が昇る幸せな国」(https://www.loc.gov/item/2020637415/)と称した外国人?もいます(最初の記事)。


4.今もおしゃべりを楽しみながら働いている人たち

一例が、千葉県勝浦で毎日開かれる朝市のおばさん・おばあさんたちです。
私は義母の希望で朝市を訪ねました。

義母はセリを売っていた同世代のおばあさんと立ち話をし、地元の調理方法を教えてもらい、全数を買いました。
おばあさんは大喜び。

お金が入ったからではありません(代金は千円足らずで、おまけもしてくれました)。
おばあさんは前日の雨のなかセリを摘みに行ったのですが、雨続きなので、「買ってくれる人(観光客)が来るかなあ」と思っていたそうです。

そんななか義母が喜んで全数を買ったのです。
売り手のおばあさんは、働いた成果=(多少の対価+義母の感謝)を得ました。無言で買って代金を払ったのでは、彼女の喜びは半減したと思います。

朝市で店を出す人たちは、「お客さんや市の仲間と話をするのが自分たちの健康法。できるだけ仕事を続けたい。」と言っていました。

千葉県勝浦の朝市(平日の出店は少ないです)

のんきな時代、のんきな世代の話だと思う読者もいるかもしれませんが、仕事に対するおしゃべりの効果は科学的に証明されています。


5.仕事中のおしゃべりは効率を上げる

予防医学者の石川善樹氏は、次のように語っています。

〝昔からくりかえし研究結果で出ているのですが、若干直感に反するのですが、雑談をしている職場のほうが「生産性」とか「モチベーション」が高いんです。〟

クローズアップ現代『〝幸せ〟で業績アップを目指せ 栗山英樹と〝ウェルビーイング〟』
NHK、2023年6月28日放送

アメリカの消防士たちは一緒に食事をすることでチームワークを強め、コールセンターのオペレーターは休み時間に雑談をすることで受注率が高まることが証明されています。

歌いながらはさすがに無理かもしれませんが、おしゃべりをしながら仕事を楽しむことは、家族や仲間と仕事をしていた江戸・明治時代の人たちからも学ぶべきことですよね。


まとめ

ギスギスしないで、おしゃべりしながら、歌いながら、仲間と家族と働く。
これが労苦を和らげ、更には、労働が楽しくする江戸・明治時代の人たちのスタイルだと思います。作業効率も上がるようですよ。


出典:『定年後を豊かにするシンプルライフ』ごきげんビジネス出版


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