夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】2
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
司会の紹介で挨拶が館内に響き渡る。
『続いてはフライパンズのお二人です。盛大な拍手でお迎え下さい』
一斉に館内に拍手の音がこだまし、颯爽とそれに乗って二人が勢いよく姿を見せる。
威勢のいい出だし、爽快なボケとツッコミ。
いつもと変わらぬ出だしに壇上の二人はひとまずの安堵感を覚える。
今回は新ネタではあったが、これまでのネタ同様、客の反応はいまいちで、時折、クスッという笑い声がするだけで、以外はしんみりと静寂に時間が経過し、館内はシーンと活気さを失っていく。
披露するネタが後半に差し掛かったとき、悲劇は訪れた。
そしてこの出来事は幸いにこれまで本番においては一度もなかった。
突然、茂太の状態に異変が現れた。
弘樹は何度かこれまでに目の当たりにしていたが、本番においては一度もなかったことから驚きと焦りは隠しようがなかった。
弘樹はコンビ解消と共に田舎に帰る気でいた。
次の瞬間、茂太は本来の誠実で優しく愛嬌ある人柄にくわえて、まるで何者かに憑依されたかのようにオカマそのものの口調で台詞を言い出した。
弘樹は戸惑いながらもプロ根性を発揮し、彼なりの対応で切り抜けようと必死で応戦した。
『でさぁ、そこの交差点をね、右に曲がるわけぇ~、でね、次は左、次は右って感じぃ』
『それって無駄にガソリン使ってない?』
『うふっ、そうなんだけどね。どうもすぐにハンドルを切りたがるわけ~』
こんな調子で延々とこの数ヵ月は日常の関わりのあらゆる場所で、茂太はオカマそのものになっていた。
24時間のうち、3時間はオカマになっていた当初だったが、今では12時間はオカマだった。
原因が何かは分からない。
まして本人には自覚がまったくない。
このことから茂太自身の意思でオカマになっているとは考えられなかった。
芸(漫才コント)を無事に終えたものの客席の反応はやはり、いまいちだった。
ただ、日常では煩わしかったオカマ効果が、今回の芸の披露に対しては功を奏したのか・・・評価と手応えは過去最高といっていい。
楽屋に戻った二人は関係者やスタッフ陣に先に帰らせて話しをすることになった。
それは二人を担当するマネージャーからの提案でもあった。
勿論、マネージャーも先に帰ったのは言うまでもなかった。
それはもうマネージャーもサジを投げていたことを表していた。