夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】10
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
扉を叩いても声を張り上げても啓太は部屋から出てこない。
うっすらとした意識の状態ではあるものの、無意識がなにやら騒がしいという感覚だけを捉えていた。
しかしながらもまだ睡眠の最中にいた。
取材陣は強行突破を試みた。
もはやその場に顔を合わせた一同には、ベストセラー作家・高木啓太に対する尊厳やマナーなど微塵の欠片や素振りさえなかった。
ドアが開けられ突入された時、ようやく啓太は完全に眼を覚ました。
『あ・・・あの~、あなたたちは?』
夢うつつの啓太は現状を把握できずにいた。
有無を言わさず無理矢理、取材陣に腕を掴まれ、取材場所へと連れていかれた。
『ご、ごもくさん』
統吉の姿を見てようやく事の真実に気がついた。
『そうだった。そうでしたね。取材でしたね』
統吉は安心したのか、啓太の傍らに駆け寄った。
『高木さん、急にも関わらずこの度は取材に応じてくださって、本当に有り難う御座います』
『ごもくさん、約束しておきながら、うっかり寝てしまったようです。とんだ失礼を申し訳ありません。で、私は何をすれば宜しいですか?』
そう言って取材陣の顔を見た。
『カンペの通り、答えてくれたら構いません』
統吉と啓太にカメラは向けられる。
啓太がごもく旅館を褒めまくる。
ベストセラー作家・高木啓太は有名だ。
これでごもく旅館の知名度は一気にあがる。
統吉は今回の取材日に、たまたまではあるがベストセラー作家が宿泊したチャンスを逃さなかった。
メディアを大きく活用した。
ベストセラー作家のブランドを大きく活用した。
案の定、後日ごもく旅館には宿泊予約の電話が鳴り止まず、その名は全国に轟き、数年後には一番の名旅館になる。
ごもく夫妻からお礼を言われた啓太は、取材陣にも頭を下げてその場をあとにした。
部屋に戻ると京子が待っていた。
『あなた、取材は終わったの?』
『あぁ、今しがた終えたばかりだよ』
『あなた、とてもお疲れの様子ね。温泉にでも浸かってくれば?気持ちがすっきりしますわよ』
京子が書き置きしたメモを手にする。
『そうしたいが明日の朝一番にも入るよ』
『そう・・・』
懐石料理を頂戴し、二人で夜景を眺めながら海のうねりに耳を傾け過ごした。
こうして二人の旅行初日は終わりを告げた。
洗礼か・・・。
この夜、今度は京子が眠れなかった。
啓太の轟音ともいえる鼾が室内を支配した。
岸壁にぶつかる波の音と共鳴し、その音は次第に夜の色と溶け合った。
京子は翌朝まで起きていた。