デレラの読書録:新川帆立『先祖探偵』
戸籍を辿って先祖を調査する先祖探偵。
依頼人はそれぞれの動機を持って先祖の調査を依頼する。
なぜ依頼したのか、という動機への問いによって物語は駆動する。
物語の小道具として戸籍を使うのがとても面白い。
戸籍とは何か、と自然と考えさせられる。
戸籍というものは普段は意識しない。
わたし自身、数年前に結婚したときに、久しぶりに戸籍に対面した。
なんか高級そうな紙に印字された氏名と住所が戸籍である。
確かに物理的には紙っぺらでしかない。
しかし、その紙は物理的な存在を超えて、慣習的、文化的、精神的な意味を持つ。
その意味とは何か。
この事実を、あの紙が体現している。
それは、戸籍が焼失してしまったり、時代や個人の事情で戸籍を持てなかったときに、噴出する。
ようは戸籍は、誰かを肯定し、誰かを否定してしまう。
だから戸籍が悪いとか良いと短絡するものでもない。
目を隣に移せば、そんなものは戸籍に限らず至る所にあるのだ。
例えば子どもにとっては同じ人形を持っているかどうかで、肯定否定が、仲間かどうかが決まってしまうように。
有無は肯否に繋がる。
戸籍は「生まれ」を表現している。
そして、慣習的、文化的に、個人の身元保証のような効果を持つ。
この微妙な関係性を見抜き、探偵小説の人間模様に投影した作者の巧みさである。
加えて、食事のシーンが印象的だった。
郷土料理が「生まれ」を優しく包むかのように、クッション機能を果たしている。