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朝活へのジレンマ

昔から朝が苦手だ。

最近好んでyoutubeを見ているAKIOBLOGさんが、朝活で何やら喋るという。場所は全都民の憩いの場、新宿御苑である。"朝活"という言葉ほど近寄り難いものはないと思っている筆者は、これまで何度も朝活にチャレンジしてはその度に苦渋を舐めさせられてきた。全く続かないのである。ちなみにいつだったかもう忘れてしまったけれど、それこそ一時期、新宿御苑にはまり、日曜日の朝に燦々と溢れる木漏れ日のもと、ただひたすらドストエフスキーの罪と罰を読みふけるという奇行に走っていたことがある。ときはポケモンGO!がリリースされた直後で、世の公園という公園に、もちろん新宿御苑にも言わずもがな、ポケモンを探し求めるトレーナーたちが溢れかえっていた時節である。奴らはポケモンを探しに来ているのだろうが、僕はドストエフスキーを読んでいるという謎の優越感が気持ちよくて、ただひたすらにふけっていた。まさに謎マウンティングである。ちなみに肝心の罪と罰はマジで難しすぎて遅々として読み進まず、同じページを延々と数時間読み続けていた事実については、恥ずかしいのでここでは仔細を省く。少なくとも、そんな心のリフレッシュが当時の筆者には必要だったのだと思う。

閑話休題。何気なく見かけた朝活告知のtwitterだったけれど、もしかしたら、今日をきっかけに何かが変わるかもしれない。普段の土日はこれでもかというくらい昼過ぎまで惰眠をむさぼり続けている筆者だが、何かを期待して、久しぶりに眠い目をこすりながらも無理矢理に体を起こして新宿御苑に行ってみることにした。時刻は午前5:30。師走の外はまだ暗い。

朝の東西線はガランとしており、乗客は数える程だった。休日のこんな時間に通勤経路をたどっていると、なんとも不思議な感覚が頭を通り抜ける。みんなこれからどこへ向かうのだろう。ぼーっとしながら電車に揺られていると、朝日の映る江戸川もまるでモネの絵画のようにぼうっと揺れ、僕はただ、新宿御苑前を目指していた。

いざ新宿御苑にたどり着くと、本当に寒かった。マジでやばかった。でも、朝の日差しを受けて燦々と輝く庭園は、やっぱり意味不明なまでにとても気持ちよかった。なんだこれ、脳内麻薬か?しばらく公園の中を歩いていると、「無意識に!無意識に!」という意味不明なデカい声が聞こえた。これもなんだ?宗教か?目を向けた先には、300人を前にデカイ声で喋るAKIOBLOGという、宗教団体そのものの光景が広がっていた。

遠目から見ていただけだったから、イベントの様子はあまり詳しくは聞いてなかったけれど、朝の庭園は清々しいまでにとても綺麗だった。芝生が広々と広がり、遠目にはドコモタワーとコクーンタワー、新宿の摩天楼が並んで見える。空は青々と高く、朝の月が少し霞んで浮かんでいた。皇居もそうだけれど、都心の庭園を歩いた人ならわかると思うが、ここにはどことなく異様な雰囲気が存在する。ピラミッドとマチュピチュが並んでいるような感覚。時代を超えたバブル仲間と言うのだろうか。世界を代表する大都市のど真ん中で、不自然なまでに美しい庭園の中に佇む自分。それはとてもふわふわした感覚にさせてくれる。さみいさみい言いながらも散歩をしてみると、なるほど、朝の光を浴びて深呼吸するだけで、日常のいろんなジレンマが少しずつ整理できるような気がする。「やりたいことをやる」「自分を否定してくる周りの発言なんて全部無視でいい」ところどころ遠くから断片的に聞こえるその声に、自分の中の何かが励まされたような気がした。

イベントの終わりがけ、ベンチに座ってこの集団を眺めていると、「これは何のイベントですか?」とスポーティな装いの淑女に声をかけられた。「いや、僕もわからないんですけど」たまらずに知らないフリをした。だってこの集団、気持ち悪かったから。聞けば、この淑女は最近息子夫婦に子どもが生まれ、そのお世話のために大阪から一時期東京にいらしているという。最近は新宿御苑での朝活のプロらしく、スマホを器用に動かしながら「こんなにいろんな活動をしているんですよ。」と楽しそうに教えてくれるその姿に、僕はその年になってもすごいなと全然関係ないことを思っていた。「どうやら、youtuberっていうのかしら?有名な方の自己啓発の講演みたいですよ。」別の参加者から聞いたのだろう、淑女はこの集団の目的を丁寧に教えてくれた。「はあ、そうなんですね。」最後まで僕は、自分もそれを聞きにきていることを堂々と言うことができなかった。

イベントが終わり、もう一度、御苑を少し散歩する。徐々に人が増えてきた。今日もまた、1日が始まる。結局、今日きたことで自分は何か変われるのだろうか。多分何も変わらないのだと思う。それでも僕は、きて良かったと思う。たまの気まぐれだったかもしれないけれど、眠い目をこすってきてみて良かったと思う。自分の人生は一回しかない。だから、自分のやりたいことをやろう。そんな気持ちになれた気がするから。今日も、最高の1日にしよう。

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