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タンポンはキャビアより贅沢なのか?-『The Tampon Book』をデコンする-
カメラはニコン、あだ名はデコン、出口昆です。
こんにちは。
ここ数年、有志で集まって広告をデコンストラクションするデコン会を毎週行なっています。先日のデコン会で『The Tampon Book』をやったのでシェアします。
タンポンはキャビアより贅沢なのか?
今回扱うのはドイツで行われた企画です。
タンポンをはじめとした女性用生理用品は、食料や飲料水などとは異なり生活必需品ではないとみなされ、他の生活用品に比べて高い税が課されているという問題がありました。
食料品は7%なのに対し女性用生理用品は19%です。
女性にとって生理用品は、Netflixなんて赤子に見えるほどの究極のサブスクと言えます。数十年に渡って継続的に支払い続ける必要があるものだからです。完全に生活必需品と言えるでしょう。
にもかかわらず、生活必需品とは認められずに税率19%。
キャビアのような嗜好品でも税率7%なのにおかしいだろうと。
キャビアは食べないことを選択できるけど、生理用品は基本的に使わないことは選択できないからです。多くの女性のなかに不平等感がインサイトとしてありました。
法律を作っているのは男性
また、今でこそヨーロッパでは女性議員が多いですが、
「法律を作っているのは男性」
と言われるように、長きに渡り男性優位社会が存在してきました。もし以前から女性議員が半数を占めていたら、タンポンは19%の税率になっていたでしょうか?という話です。
多くの女性の中に、男性優位社会への不満もインサイトとしてあったでしょう。
タンポンを本として販売する
この問題を解決するために、クリエイティブの出番です。
タンポンを本として販売しました。その名も『The Tampon Book』。厳密にいうと、「本の付録として」販売しました。本の税率は7%なので、本の付録ということにしてしまえばタンポンを7%の税率で販売できるからです。
![](https://assets.st-note.com/img/1733142082-HzXhv1NjOYEe0gMy75tVDnSo.jpg?width=1200)
ただ付録にしただけじゃなくて、実際の本としてのクオリティも担保しています。生理に関する本として、中身もしっかりしたものを制作しました。その本の「おまけ」としてタンポンが15本付いてくるという構造です。
これが本としての中身が何もなくて、"ただ本の形をしている"ということでは成立しなかった企画です。
いいね!としての購買
この商品が発売されると、発売2週間で1万冊が完売となり話題になりました。多くの女性に支持され、多くのメディアで取り上げられ、SNS上で購入したユーザーに沢山シェアされました。
これは、いいね!としての購買と言えるでしょう。
「私は『The Tampon Book』を支持します」
という意思表明ができるからです。隠すものではなく、むしろ積極的に見せたい、アイデンティティに関わる問題です。
この本のパッケージはとてもオシャレで、見せたいものになっている点も重要なポイントです。これを持ち歩くこと自体がショッパー(ショッピングバッグ)の役割を果たして、それ自体が広告として機能しています。
そして、
「それを持ち歩くイケてる私」
も満たせます。
カンヌライオンズPR部門 グランプリ受賞
『The Tampon Book』はカンヌライオンズPR部門のグランプリを受賞しました。審査員のコメントとして、以下のようなものがありました。
「今回ジェンダーの問題としてこの作品を評価したわけではありません。あくまでビジネスの視点でグランプリを決めました。税率の格差の問題に真っ向から立ち向かいながら、ビジネスを進めたことに対して審査員チームはポジティブな印象を受けました」
確かにダイバーシティを重視し、マイノリティに配慮したりというのは大事な要素だけど、シンプルにビジネスとして強いという点が評価されたということですね。
どんな素晴らしい企画であっても"受賞のための企画"で終わってしまっては意味がなく、実際に社会で機能してなんぼですからね。
政府を動かす
『The Tampon Book』が大きな注目を集めたことがきっかけとなり、生理用品の税率検討を求めるオンラインの署名(change.org)が15万以上集まり、議会もこの議題を議論せざるを得なくなりました。
その結果、ドイツ政府は生理用品の税率を19%から7%にすることを決定しました。
すごいですね。
実にヨーロッパっぽいなあと思います。
市民の力がそのまま社会を動かす感じが。
本が生活必需品扱いで税率が7%というのも。
今回の企画は税率が大きく変わるの点もよかったと思います。これが8%→10%程度の違いだったらここまでのムーブメントにはなっていなかったかもしれません。12%も変わってくるならほっとけないという面は大いにあったでしょう。
まとめ
●元々、生理用品が生活必需品とみなされず高税率なのはおかしいというインサイトがあった
●この流れはドイツのみならずヨーロッパ中にあった
●税率が大きく変わる(19%→7%)のも大きかった
このような背景のなかで絶妙な企画を打ち出したことで大きな話題となり、多くの支持を得て、ついには政府を動かし、税率を変えるということが起こりました。
以上、クリエイティブが社会を変えた事例でした。
いやあ、クリエイティブって面白いですねー。またデコン会で何かデコンしたらシェアしていきますね。
Decon the world!
出口昆