自閉症スペクトラム(ASD)の人に芸術家の仕事は向いているか
自閉症スペクトラム(ASD)やアスペルガー症候群の人の適職について、本やインターネットで調べていると、時々疑問に感じることがあります。そこには何故か、「芸術家」と書かれていることが多いのです。
前回紹介した「アスペルガー症候群・高機能自閉症の人のハローワーク」(テンプル・グランディン/ケイト・ダフィー:著)にも、芸術家として成功した当事者の体験談が載っています。
前回の記事はこちら↓
しかし、英国の児童精神科医であるローナ・ウィングさんによると、ASDには三つ組みの障害があると言われています。①社会性 ②コミュニケーション ③想像力。以上3つの障害です。③の想像力に難があると、芸術的な創作活動は難しいのではないかと思うのですが……
それでも、テンプル・グランディンさんらによる上記の著書を読み進めているうちに、考え直しました。そんな私の方こそ職業に対する想像力が足りなかったかもと。私自身がASD当事者で、しかも学生時代に芸術を勉強していたこともあって、とても興味のある内容でした。
ここでは、ASD当事者がアーティストに向いている理由について、本気で考えてみたいと思います。
商業芸術までフィールドを広げると可能性あり
画家や音楽家のような純粋な芸術家だと、その活動だけで生活費を稼ぐのは正直きついです。それでも商業芸術までフィールドを広げると、職業としての可能性が広がります。クリエイティブに、職種を幅広く考えてみようということですね。
冒頭で紹介した著書で、テンプル・グランディンさんは、以下のことを仰っています。
そういえば私の知り合いにも、紙器のデザイン会社に就職した人もいれば、服飾デザイナーとして働いていた人がいました。うちの親戚も庭師をしています。
現代なら、Webデザイナーや動画クリエイターを目指すのもいいかもしれませんね。ネットで検索すれば、実際にその職業に就いている人の体験談をよく見かけます。
学生なら今後生活できるように、商業芸術の勉強をするのもいいかもしれません。芸術家とまでは言わなくても、芸術的な仕事ならたくさんあります。
ASDには飽きないという才能がある
芸術家というと、閃きが求められると思う人もいるかもしれませんが、それはたった1%だと私は思っています。残りの99%は、地道な訓練のたまものです。
私の知り合いのピアニストの方は、1日8時間くらい練習すると言っていました。大学の美術専攻の友達はみんな、デッサンの練習を積み重ねていました。
ASDの人は、一つのことに飽きずに取り組める人が多いので、この特徴は才能と言えるんじゃないのでしょうか。
ASDには視覚的・聴覚的センスがある
美術やデザイン関係の仕事の場合は、視覚的センスが、音楽関係の仕事の場合は、聴覚的センスが求められます。
ASDの人で、視覚や聴覚が敏感な場合は、それを仕事に生かせるかもしれません。
あまりに過敏すぎると、辛くなることもあるかもしれませんが、その場合は工夫が必要ですね。私の知り合いにも、耳栓を愛用しているミュージシャンがいます。
まとめ
自閉症スペクトラム(ASD)の人が、芸術的な仕事に向いている理由について考えてみました。
商業芸術までフィールドを広げて、飽きずに取り組める特性や、視覚的・聴覚的センスを生かせば、適職となる可能性はあります。ASDに向いているから、という理由ではなくて、自分がやりたいから、という理由であれば、挑戦してみる価値はあるでしょう。
……最後に一言。
アーティストって、仕事の肩書きというよりも、むしろ魂の本質のことだと思うんですね。ちょっと青臭い言葉になりますが、本気でそう主張したいです。
本当に絵が好きな人なら、一銭ももらえなくても、描かずにいられません。音楽が好きな人なら、寝る間も惜しんで、演奏に打ち込んでしまいます。食べるために芸術に勤しむのではなく、食べるのも忘れるくらい芸術に打ち込んでいれば、きっとライフワークに繋がっていくはずです。
好きなことがあれば、どんな形であれ、続けていってほしいと思うのです。そんなASD当事者を、心から応援します。