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第八話 後藤新平との出会い

 「鉄道院に来い」 
 この後藤新平の一言がなければ、十河信二は農商務省の役人になっていたはずである。
 後藤は、広軌鉄道建設論者の元祖といっていい。たとえ後々に十河信二が国鉄総裁の椅子に座ったところで、後藤新平を師と仰ぐことがなければ東海道新幹線が実現していたかどうか、大いに疑わしい。
 十河信二は帝大卒業に際して、穂積陳重のぶしげという愛媛出身の独法科教授に、就職の希望についてこのように相談している。
「私のごとき田舎百姓の次男坊が最高学府を卒業できたのは、ひとえに郷里で働く人々をはじめとする国民の皆様のおかげであります。卒業後は、国民大衆に奉仕して長年の恩に報いたいと思います」
「そうか。君の親父さんは篤農家とも聞いておるし、農商務省がよかろう」
 こうして穂積教授の口利きによって農商務省入りが内定した。そこに松木幹一郎という同じく愛媛県西条出身の先輩があらわれてこう言った。
「おい、十河。後藤新平に会っておけ」

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