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期間限定バウムクーヘン事件

天神駅前でふらっと入った洋菓子店で美味しそうなものを見つけた。

右の表面がブリュレ加工になっているものも気になるけど、それよりも惹かれたのがチーズタルトとバウムクーヘンのハイブリッド。

濃厚なチーズクリームと、ふわっふわなバウムクーヘン生地、食べる前から美味しいことが容易に想像がつく。

ダイエット中なこともあり、ホールではなく1/4カットの物(好みでベイクドの方を選んだ)を購入。
保冷剤を入れてもらい、ウキウキと帰路についた。

事件は、夕食も終え、さてお楽しみのケーキを食べようと、箱から取り出し、包装を剥いている途中に起きた。

お分かりいただけるだろうか?

そう、チーズタルトとしては当然のことなのだが、底があるのだ。

それも、タルト生地ではなく、側面と同じくバウムクーヘンの生地だ。

これは素晴らしい、他の食感に邪魔されることなくチーズクリームとバウムクーヘンのハーモニーを楽しめる!

胸が躍る一方で、一つの疑問が首をもたげる。

いや、待てよ?
どうしてバウムクーヘンなのに芯があるんだ?

周知の事実だとは思うが、改めてバウムクーヘンの焼き方をおさらいしておこう。

生地を焼成してから巻いていくロールケーキなどとは違って、“木のケーキ"の名を関するバウムクーヘンはその名の通り、年輪のように生地を一層ごとに焼いて重ねて作られている。

そして、円周方向に均一に焼くためには、中心部分に熱源となるヒーター付きの鉄芯が必要不可欠なのだ。

だから、穴のないドーナツはあり得ても、穴のないバウムクーヘンは存在し得ない。

よしんば穴が埋まっている箇所があったとしても、その部分に年輪が刻まれていることはあり得ないのだ。

では、目の前にあるこの生地は一体なんなのだろう。

不揃いとはいえ、ほぼ等間隔に年輪が並んでいる以上、後から継ぎ足したとは考えづらい。

となると、何らかの革新的な方法で鉄芯を使わないバウムクーヘンの焼き方が開発されたとしか考えられない。

思い返してみるとディスプレイの横には個性的な形状のバウムクーヘンが並んでいたではないか。

これだけの起伏を持ったバウムクーヘンが作れるのだ、きっと穴のないバウムクーヘンを作る方法も編み出したに違いない。

しかし、食べるのに夢中になって、普通の人はこの素晴らしき発明には気付かないのだろうな、とほくそ笑みながら、その発明の全容を知るべく、食べかけのケーキを裏返した。

…………。

いくら小市民を志したとて、私は小鳩くんにはなれないのだな、と思い知った私は大人しくバウムクーヘンの味に舌鼓を打ったのであった。

(文末註:タイトルでは期間限定と名前をつけていますが、言うまでもなく小市民シリーズのオマージュであり、年中買えると思います)


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