Netflixの"Blown Away"を一気見した感想
久々に4時間ぶっ通しで一つのコンテンツを見てしまった。
邦題のダサさで尻込みするのはもったいないからとりあえず1話だけでもいいから見てほしい。
(blow awayってイディオムをガラスに結び付けるのが難しかったのはわかるけど、もう少し何とかならんかったのかとは思う)
テレビチャンピオンが好きだったすべての人へ
番組の構成は超シンプルで、巨大工房に集めらた経験も人物像もバラバラな10人のガラス職人が作品を作って競い合うだけ。
毎回、番組の冒頭でテーマ(例:好きな食べ物、身体の動きetc)が提示され、それに関わるゲスト審査員から求められる方向性が示された上で、制限時間内で作品を作り上げ、審査に挑む形式だ。我々日本人にとっては、「テレビチャンピオン方式」というのが一番分かりやすいかもしれない。
この番組のうまくできているところは、毎回"最優秀賞"は決められるものの、それは最終的な報酬(6万ドルと世界最高峰の美術館による職人人生のバックアップ)を得るうえでは関係なく、"最もテーマにそぐわない作品"の職人がドロップアウトしていき、最後に残った人が優勝というシステムを取っているところだ。
序盤のうちは人数も多くて、誰が残ってほしいとかもなく、発表時にぱっと見で良い作品を作っている人は妥当に残るのであまりストレスがない一方で、中盤を過ぎて、それぞれの職人に愛着が湧いてきて、残る作品がみな洗練されてくると「誰も落ちないでくれ~」と祈りながら結果発表を待つことになるので良い塩梅だと思う。
作品を通して見られる職人の人間性
個人的に一番の魅力だと感じたのは職人のキャラがみなはっきりしていて、それでいて人間性の掘り下げに時間を割く安易なドキュメンタリー番組にはなっていないところだ。画面の転換ごとに参加者の独白を挟む形式こそ典型的なアメリカのドキュメンタリーだが、語るのは勝負にかける意気込みであり、作品に込めた想いであって、その職人がどういう人物なのかは、完成した作品とその工程を通してしか語られないのがよい。
一貫して透明なガラスで精緻な作品を作るアレキサンダー、彫刻作品にこだわって誰よりも早く作品を作り上げるエドガー、日本を象徴するモチーフを必ず作品に盛り込むモモ、人種も性別もバラバラだからか、出来上がる作品それぞれに個性が溢れており、人物のバックグラウンドの説明はないにも関わらず、回を追うごとにキャプションがなくても誰の作品かが分かるようになるのだから不思議だ。
作品にこうも人間の個性が現れるのか、というのを実感できるのは、同じ面子が同じガラス工芸という技術で色々なテーマで10回にわたる勝負を繰り広げるからこそだろう。
特に5話の終わり方は、なかなかドラマでもここまで感動的に登場人物の退場は描けないだろう、という鮮烈さがあるのでぜひ見てほしい。
ガラスの不可逆性が作り上げるドラマ
制限時間の中で作品を作り上げるTVショーといえば、料理ショーが真っ先に浮かぶだろうが、本作品と料理ショーとの一番の違いは、作り上げるものがガラス作品であることだ。
素人の料理はともかく、一流の料理人が料理を作る際に致命的な失敗というのはなかなか起こりにくいが、ガラスの脆さは誰に対しても平等なので職人が扱おうともすぐに割れてしまう。普段の彼らは割れたとしても最初からやり直すのだろうが、TVショー特有の制限時間がそれを許さないため、台本がないにもかかわらず、毎回毎回手に汗を握る展開が繰り広げられることになる。
最後に棒から切り離す作業で落としてすべてが無に帰してしまったり、徐冷炉に入れようとしてハサミから作品が離れなくて折ってしまったり、そんな残酷なことをしなくてもいいのに、という不運なトラブルが参加者を次々と襲う。
1回あたりの再生時間が細かく決まっていないNetflixオリジナルコンテンツの強みだろう、トラブルが起こる回ではしっかりとそのリカバリーも含めて時間を取る一方で、参加者が減ってくる後半では無駄に引き延ばすようなことはせず過不足なく視聴者が見たいボリュームでの展開が提供されるので、毎回全く退屈することなく最後まで見ることができた。
(25分前後×10話というボリュームが一気見しようと思えばできるちょうどいいラインなのもなかなか憎い。15話あったら中断していたし、1話40分だったら脱落していた可能性もある)
コンテスト形式にも関わらず結果に不満が残らない
芸術作品の評価ほど主観がウェイトを占めるものもそうないと思うが、幸か不幸か脱落作品に対して、「え、それが落ちるの?こっちの方が出来悪くない?」と思うことは一度もなかった。(上述の通り、職人が去ることに対しては惜しさや悲しさは終盤は毎回感じるが)
テーマの発表に添えて、評価するポイントが明示されていることが大きいのだろう。どうしても、そのポイントからずれた作品はあって、作品の講評タイミングでその点が指摘されるので、客観的な納得感があるのが消化不良感なく見続けられた要因だと思う。
あとは何といっても「え、この作品、全部完璧なのにどれか落ちるの??」となった回でも納得のいくソリューションが示されたのが番組に対する信頼度を爆上げした。あまり詳細を書いて読者の皆さんが見るときの興を削ぐのは本意ではないが、あれほどホッとする経験はなかなかないと思う。
なんといっても構図がいちいち綺麗
溶けたガラスに息を吹き込んで膨らませるシーンも、色とりどりの色ガラスを使ってガラスに模様を付けるシーンも、真っ白な展示室で審査員が各作品をレビューするシーンもいちいち絵面がかっこいいのが良い。
カメラワークもさることながら、やっぱり透明なガラスも色鮮やかなガラスも、それ単体が美しくて人の目を、心を惹きつけるんだなあ、と実感した。
何はともあれ
ストレスフリーに、ドキドキしながら、綺麗なものを摂取したい人はぜひ観てみてください。