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自分の描いた絵で人を泣かせた話-中編-

純粋に絵を描くことを生業とする夢は叶わなかったものの、それに近い形でぬるっと美術系の仕事に就けたのはありがたかった。学生の頃からマックでイラレやフォトショの基本的な技術は習得していたし、元々ゲームやパソコンが好きだったのでDTPが隆盛し出した時期にデザインを始められたのもラッキーだった。
デザイン会社に入ってまず驚いたのは勤務時間の長さ。とめどなく仕事が溢れており、業界自体潤ってたこともあってめちゃくちゃ忙しい。新人でまだうまく仕事も回せないからどんどん仕事が溜まって毎日終電ギリギリまで働く。デザインのフィードバックも先輩だって忙しいから事細かに説明する暇もなくカンプに殴り書きされた暗号めいた何かを必死に読み取り、直しては突っ返され直しては突っ返されを繰り返してなんとか形になった。そんな日々が当たり前になっていった。
デザイナーになって3年くらい経ち、ようやくまともに仕事が回せるようになってきた。依然として忙しい状況ではあったけど、徐々に仕事に手応えを感じ始め、適度に充実感もあり給料もバンバン上がった。そんなある程度レベルの高い仕事も任されるようになった頃、壁にぶつかった。デザイナーは結局客商売なのでお客さんの要望に応えなければならない。要件通りに作ってるつもりが絵を描いてた頃の悪い癖なのか、作ったものを客観的に見ることができずちょくちょく外してしまう。第一校目の社内フィードバックで必ずダメ出しされることが続いた。締切直前のかなり進めた段階でひっくり返されることもよくあって、その度に徹夜で対応した。
どうも正解との距離感がうまく掴めず、こればっかりはセンスというかデザイナー向きではなかったのかもなと適性を疑ったりもした。今考えると事前に根回しというかトンマナや方向性を口頭レベルでコンセンサス取っておけば良かったのだが、そういう政治的なやりとりが苦手でとりあえず作るという職人肌タイプだからしょうがないと自分を納得させた。
要はずっと我流で仕事を進めてきた仇がここにきて顕在化したのだ。仕事の進め方を誰からも教わってないから行き当たりばったりで無駄が多く、ただ手を動かすだけで時間ばっかりかかる。そのうち有無を言わさないクオリティーで仕上げることで、トンマナとか方向性とか多少ズレてようが納得させるという力技で対処するようになった。お分かりのように根本の解決にはなってない。しかしそうするより仕方なかった。一度身に付いたクセというのはなかなか抜けないものだ。頭突く。

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