ソマン⑦~ご本尊の名前~
コロドンパとは、インドらしくない名前である。
日本の言葉のようにも読めるが、Khorlo-sdompa(コㇽロドㇺパ)というのが本来の読み方に近い。
これはチベット語で、或るご本尊様のお名前である。
チベットに地理的にも近く、住む人々もインド国籍を有してはいるが、話す言葉はチベット語に通じる部分も幾つかある。
もっとも、最近はチベット語とは呼ばずに、ボディ語と呼ばれているが。
道を歩きながら、コロドンパについてからも、アマチュンはいろんなことを教えてくれた。
チベット語とスピティ語は似ているけれど、違う言葉もある。
例えば、チベット語でおじいさんを「ポポ」というけれど、
スピティ語では「メメ」という。
そういえば、2人はおじいさんを「メメ」と呼んでいた。
コロドンパはご本尊の名前がついた聖地である。
ということは、誰かがこのご本尊を目にしたか、修行をして成就したことを意味する。
ここは、何か目に見えないものにも守られている土地なのだ。
誰もがコロドンパに来ることができるわけではないという。
ご縁が無ければ追い返される。
山の向こうの厚い雲を見て、ゴロゴロという雷の音と一緒にポツポツ雨粒を感じた時、
一瞬『こりゃ無理かな』と思った。
それでも、友人は心が決まっており、このまま進もうという。
筆者は、雲が切れて太陽が顔を見せてくれる様子を、心の中で思い描いていた。
「行くだけ行って、危ないと思ったら帰って来よう」ということになり、ポツポツと雨を感じながら、前進することになった。
しかしだんだんと雨は細かくなり、遂には感じなくなった。
以前みどりちゃんが苦労した足場の狭い山道は、今回は彼女を邪魔しなかった。
彼女自身も、これに驚いていた。
実際、山肌を横断するような道なので、足場の上にも山肌があり、下にも山肌が続く。
狭い足場の両端が絶壁という訳ではないので、それほど怖いと思わなかった。
それでも登山経験者の友人は心配をして、
「もし滑って転んだら、上方の斜面に、横に転がるように!」と注意していたが、
みどりちゃんは
「それは落ちた時に思い出すよ。」なんて言っていた。
結局2時間ほどで全員がコロドンパに到着し、
アマチュンは「すごく(思っていたより)早く着いた~」と驚いていた。
筆者も無事に到着できたことに驚いていた。
実は、アマチュンと筆者が先にコロドンパに着き、みどりちゃんと友人は少し遅れて到着した。
アマチュンチーム2人はさっさと石造りの祠に入り、灯明を作りなおして油を入れて供養をし、しばらく祠内でそれぞれ祈っていた。
アマチュンチームが祠の中でゴソゴソしていた時に、みどりちゃんチームが到着し、祠は小さくて皆が入ることができないので、
彼らは荷物を置いて、更に上方まで登って行った。
祠の上の斜面(岩)にはまだまだ祈祷旗が連なって張られ、風を受けてはためいていた。
その上には大きな一枚岩があり、その辺りに小さな1人用の瞑想洞窟があったらしい。
筆者はコロドンパより上に登らなかったけれど、友人が教えてくれた。
コロドンパの祠は、斜面にある大岩の下のくぼみの周りに、石を積み上げて壁を作り、扉をつけた小部屋のようなものだった。
大岩自体に、修行者の法力か、ご本尊のお加持力が浸み込んでいるのだろう。
正面には小さなグルリンポチェの尊像と、その後ろにブッダガヤ―のマハーボディー寺におられる釈尊像の御御影。
グルリンポチェの左側には黒い石が祀られているだけだった。
その前には小さな祭壇があり、灯明が幾つか灯せる。
アマチュンは祠に入ると、端に置かれていた紐の玉から紐をちぎり、ねじり、よって燈心を作った。
それを、カタ(縁結びの白い布)で拭いて清めた灯明の台に上手く埋め込み、そこに油を注いで灯明を作った。
元々あったマッチで線香に火をつけようとしたが、湿気ていてなかなか火がつかない。
それでも苦労して線香に火をつけ、線香の火から灯明に火を移した。
アマチュンはしばらくそこで、自身で持ってきていたお経を読んでいた。
グルリンポチェの上司供養だそうである。
特別な懺悔の言葉もあるそうだった。
それが終わると外に出て、五体投地をしていた。
祠の中は静かな空間だった。
コロドンパと呼ばれているが、グルリンポチェの尊像の隣にある黒い石は、観世音菩薩の身体の一部であるという。
身体の一部を残して、観音様は何処かへ消えた。
コロドンパは観音様の三大聖地の1つで、1つはここ。もう1つはカシャパクパ(ラホール郡)。
もう1つは何処だったか、ネパールだかチベットだか、メメ(おじいさん)が知っているとアマチュンは言った。
この周辺にある聖地の言い伝えも、メメは良く知っている。
彼女が五体投地をしに祠の外へ出た後、筆者はそのまま残って、持ってきたお祈りテキストを読み、日課のお祈りをした。
しばらくするとみどりちゃんチームが散策から戻り、友人は祠に入ってしばらく瞑想をしていた。
外で待っている間、またポツポツと雨が降ったが、意外にも一瞬太陽が出た。
暖かい日光を感じて、祈りが聞き届けられたと静かな嬉しさを感じた。
周辺には沢山聖地があるとアマチュンは言っていたが、場所によっては行くことが難しい。コロドンパは易しい方である。
彼女が教えてくれたもう一つの聖地は、「デンチョク・ヤブユム」。
切り立った山が対で並んで立っており、向かって右がヤブ、左がユムである。
それぞれの山に洞窟のような祠があり、祠近くは道になっているが、道に至るまでが険しい岩山で、普通の人では登れないそうだ。
こちらも、チベット語のご本尊の名前がついた、聖なる山である。
山の霊気からも、土地の名前からも、
人界から離れた異空間にいるような聖地であった。
つづく。
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