ナコ①
ナコは小さな村である。
三角形のキノール郡の北東に位置していて、チベットとの国境に近い。
タボからナコへ行く場合、ラホール&スピティ郡とキノール郡の郡境スムド(Sumdo)にチェックポストがあり、外国人はもれなくパスポートとビザ、インナーライン・パーミット(入域許可証)のチェックがある。
チベット人も同様である。
無事に登録を終え、そこかしこ工事中の道をだんだん上り、高山病予防の薬を口に含みながらナコに着いた。
ナコは標高3662m。
タボ(約3000m)より600m高く、カザ(約3500m)よりは少し高いくらいだ。
ダラムサラで紹介をしてもらった時から約束をしていたので、行きは贅沢をして、車をお願いした。
ナコの宿舎も、運転してくれたTさんの知人が経営しているホテル、レイク・ビュー(LAKE VIEW Hotel & Restaurant)にすることにした。
知人の紹介だということで、ここでも少しマケてもらった。
小さなホテルの家庭菜園のすぐ前に、湖が見える。
YouTube動画で視ていたように、ナコ湖は緑色だった。
当初の予定では、ナコ滞在は3~4日だった。
あまり遠出する予定もなく、湖周辺を散策して、お寺に参って終わりの筈だった。
旅程が激変したのは、到着の2日後である。
ナコは、標高の高い乾いた山々に囲まれた中に突如出没する、オアシスのような村だ。
水源があまり見られないのか、周囲は灰色砂色石色ばかり。
その中に、緑色のナコ湖を東に置いて、果樹や畑の緑色と人の住む集落が現れる。
湖に近い平坦な場所に、人が集まって住むようになったのだろう。
ナコ湖の西側に密集して家が建てられている。人と家畜の行き来ができれば良いから、村の中の道幅は狭い。
住宅地の中に入ると一体どこに向かってるのか分からないような、迷路のような道である。
実際迷った。
家のない山の斜面には水を引いて、畑が作られている。
村の西から北にかけて幹線道路が通っていて、
ナコへ続く道と同じように、村中でも今建設ラッシュ。
多くは新しいホームステイ施設やゲストハウスを作っていた。
ナコ僧院は村の西の端にあり、東の端にある湖からはちょっと歩く。
旅行計画の始めから、ナコは目的地の一つになっていた。
何故なら、ナコ僧院にある壁画だろうと思われるグリーンターラー尊像に、筆者はどうしてもお目にかかりたいと思っていたからである。
20年前に、ダラムサラのチベタン・ライブラリーで或る写真を見た。
それは、この地方の古い僧院群にある壁画独特の画風で描かれた、グリーンターラー尊の写真だった。その写真の説明欄に、「Nako」と書いてあった。
『あっ、この人知ってる。』と思い、
同じ写真集でナコ村の写真を見て行きたいと思ったものの、
その時は『スゴイ辺境の地らしいから行けるはずがない』と直接拝観することをさっさと諦めてしまったけれど、
今になって機会ができたので、ナコ僧院へ行けばこの緑ターラーに会えると思って、ここまで来たのである。
そんなわけでかなり期待した状態でナコへやってきたものの、
初日自由時間に1人ナコ湖の周囲を散策していた時、『あれ?』と思った。
何か違う。
去年から観光客が少なかったせいか、湖の周りが整備されておらず、ゴミがそこここ落ちていたことや、
湖も雨が少なくて水量が減っていたこともあるかもしれないが、
思っていたほど「聖なる湖」感がない。
湖のほとりに大きな自然石があり、そこに観世音菩薩のご真言、
(例の)「オム・マニぺメフーム」がペンキで描かれているのだが、
その前に小トラック1台分くらいの砂が小山になっていて、砂山の隅を歩く人の足跡がご真言の上にある。
『なんてこった』
慌てた筆者はご真言の発掘にかかった。
何も道具は持っていなかったので、一生懸命手で砂をのけて、とにかく文字が全部見えるようにしようと頑張った。
しかし、限られた時間で、1人で何とかできる量の砂ではなかった。
一応全部の文字が読めるくらいになった時、
昔ほど真面目ではなくとも未だ仏教徒の筆者は、失意を感じながら第1回目の湖散策から帰宅したのであった。
来る前は、湖に着いたらすぐにお加持の砂を湖に注ごうと思っていたのだが、
何となく水も淀んでいるように見えて、神様が喜んでくれそうにも思えなかった。
そんな訳で、しょんぼりとゲストハウスに帰ってきた。
その後、所要のあった友人がその仕事を終え、2人で散策に出かけた。
道に迷いながらナコ僧院へたどりつき、参拝した後、うねうねとした道を辿って湖のほとりに帰って来た。
湖を廻って、水路が流れていた横道に入り込み、周りの畑や山々を望める村の果てまで見に行った。
村の果てには小分けされたリンゴの果樹園があり、小さなリンゴが鈴なりになっている。
日の入り間際、谷の向こうの山々も美しくて、また喜んで写真を撮った。
ナコ僧院の参拝には、続きの話がある。
明日の話である。
つづく。
DECHEN
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