ソマン⑪~人生最大のピンチ・後編~
※汚い話になります。
美味しい夕食を頂いて、少しゆっくりした後、筆者は自分の寝床がある上の部屋に戻った。
お祈りがまだ少し残っていた。
図らずも2泊することになり、ナコから運んでくれた軽トラックの運ちゃんには、「筆者が病気だ」という理由で、迎えを明日の午前中に伸ばしてもらっている。
「病気だ」とか言いながら山を登って下りてきたのだが、
明日も元気に下山できるだろうと安心していた。
お祈りを終わらせて、いつも通り寝に着いた。
異常が起こったのは午前1時過ぎである。
ふと目が覚めると、何だかお腹がゴロゴロいっている。
夜は寒く、筆者の泊まっていた部屋には暖も無いので、毛布や羊の毛を編んで作った重たいショールなど、できるだけの防寒対策をして寝ていた。
なので、寝床は暖かいのだが、
どうも腹部がゴロゴロと気持ち悪い。
痛みは無い。
そのまま朝までやり過ごせそうでもなかったので、仕方なく屋外のトイレへ行くことにした。
日帰りのつもりで来たので、昼着ていたままの服で毛布から出て、ダウンの上着を着て外に出る。
トイレまでの傾斜道に明かりは無いので、トーチを持って行かなければならない。しかし普段使っている携帯電話は、明朝運ちゃんと連絡をとるために、バッテリーを取っておかなければならない。充電コードは持ってきていない。
写真撮影用に他のデバイスを持ってきていたので、内蔵されたトーチを使おうと思ったが、トーチアプリがどんなに探しても見つからない。
お腹が更にゴロゴロしてきたので、消えそうになったら画面をタップして明かりを取ることにして、遥か彼方にあるトイレ(筆者の印象)へ向かって部屋を出て、歩き始めた。
外は真っ暗で、多分曇っていたのだろう。星が見えた記憶が無い。
居住域から出て、デバイスの中途半端な明かりを頼りに山道を下り始めた。
しかし、
30メートル先のトイレの遥か手前、10メートルくらいの所で、お腹が暴走した。
暴走したというか、耐えられなかったというか、とにかく出てきてしまったのである。
『わぁ‼‼‼』と思い、あわてて道のわきにしゃがんだが、時すでに遅し。
大量の油と昔の黄色い食べ物が、消化されずに出てきてしまった。
その時ばかりは、少し腹が痛かった。
道は真っ暗で、デバイスの明かりは弱く、すぐ消えそうになる。
真っ暗になったら、デバイスが何処にあるのかすら分からない。
消えそうになるデバイスの画面をタップして明かりをキープしつつ、
とにかく腹の中にあるものを全て出すために寒さをこらえつつ。
あんなお先真っ暗な経験をしたことは、かつて無かった。
一応腸内のものを全部出して、一段落したものの、
更なる困難が待ち受けていた。
寒さと油脂にびっくりして、筆者の腸は自発的に内容物を外に投げ出した。
何の連絡もせずにである。
要するに、一張羅のズボンも下着も汚れてしまった。
これも普段であれば、汚れてはいようがちゃんと着替えがある。
ここでは日帰りのつもりで、衣類の替えなど持ってきていない。
・・・・・
更にお先真っ暗の気持ちで、汚れた衣類を取って、汚れた体の部位を拭き、
上着を腰に巻いて、暗い中でどうしようかと考えた。
寒い。
とにかく、衣類を汚れたままにしておいてはいけないと思い、洗うことにした。
今すぐ洗って干しておけば、朝には半乾きで何とかなるかもしれない。
生活用水を溜めてある場所に行き(幸い、そこには電球がついていた)、
石鹸など持っていなかったので、水で汚れだけを落とした。
『メメ。大事な水を使ってごめん・・・』
と思いながら・・・
この時ほど、洗濯バケツのありがたさを思ったことはない。
そこには無かったからだ。
ズボンについてしまった便は砂が混ざっているみたいにザラザラしていて、
「ああ、消化できなかったのね」という感じだった。
汚れた水は見えない場所に流し、何とか下着とズボンを洗い終え、
やれやれと部屋に戻った。
部屋の隅に洗い物をひっかけられる突起を作って、ひっかけて寝た。
我ながら、あの時はよく頑張ったと思う。
心配だったが、朝目覚めた時に腹は痛くなかった。
逆に不思議に思ったものである。
翌朝眼が覚めて、深夜の惨劇の現場検証をしなければならないと思い、明るくなってからトイレへの道を下りた。
道幅は狭い。
道のすぐ脇にある石に黄色いものがのっていたのでそれをひっくり返し、葉っぱにも少し被害が出ていたので、ごめんと言いながら砂をかけた。
犬や猫がおしっこや糞をした後、後ろ足で砂をかける気持ちが分かったような気がした。
朝になっても、深夜に洗った衣類は乾いていなかった。
無理もない。寒いし、乾燥しているわけでもない。
出発までの時間で少しでも乾くかと、日光の当たる部屋の外にズボンを引っかけた時、ふと思いついた。
使わないズボンが、メメにないだろうか?
丁度良く朝の仕事をするメメが通りかかったので、メメに訊いた。
「もう捨てても良いような、使わないズボンは無い?」
干してあるズボンを見て、メメは察したのだろうか。
3種類のズボンを、部屋の中から出して来てくれた。
どれをはいても良いという。
結局、女性用の薄いズボンがあったので、それをはかせてもらうことにした。
ダウンのベストを腰から巻いて、膝まで隠れるようにして薄さを誤魔化した。
朝ご飯は、カンに残ったコンデンスミルクのチャイと、チャパティと、
同じように作られたダル。
友人は『腹を壊した後で、またそれを食べるの?』と思っていたかどうか。
カラスのように3歩歩けば忘れる筆者は、勧められるままにまた食べた。
チャパティは1枚減らしたけれど。
これもまた不思議で、その時は全く腹を壊さなかった。
後で友人と話したことである。
多分、筆者が初日に体調を崩したことは、ソマンに留まってコロドンパへ行くため。
2日目の下痢は、浄化。
そうして、無事下山する運びになったのである。
つづく。
DECHEN
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