ソマン⑩~人生最大のピンチ・前編~
やって来た時から波乱続きのソマンであったが、
更に人生最大のピンチがやって来た。
困難が起こった時の意識の持ち方のヒントは、
「困難は浄化である」と考えることである。
困難も原因があって起こる。
起こった後でそれにこだわらなければ、結果が実った業は効力を失って消え去る。
その大きさに大小はあるかもしれないが、
困難が大きければ、来るだろう更に大きな災難を避ける効果がある。
筆者の場合、何か大切なことが起こる前に、一時的に具合が悪くなることが多い。
今回ソマンに着く前に体調が悪くなったのは、汚れた業のまま聖地に入ることができなかったせいだと思っている。
体調を崩し、一晩寝て、コロドンパ等へ参拝し、
ソマンにもどり、人界へ帰る前にもう一発きた感じである。
さて、コロドンパから無事に帰って来て、メメは何も言わずにニコニコと外国人を迎えてくれた。
『こいつ行ってきたのか。』と、少し驚いていたかもしれない。
帰宿したのは午後2時過ぎくらいだったと思う。
天候不良と水が充分なかったため、外でマギー(インスタントヌードル)は作れなかった。
宿で昼食を作らなければならない。
アマチュンが「マギーで良い?」と訊いたが、友人は朝食のマギーで具合が悪くなっていたので、インド豆ごはんを作ることになった。
女性4人の中でお母さん格のアマチュンが、メメの台所に入った。
一緒について入り、インド山間での豆ごはんの作り方を見学させてもらった。
主な材料は米と豆(ダル)とタマネギとトマト。
油と塩とスパイスは言うまでもない。
材料を洗って切っては割愛するが、いざ調理をする時に筆者が最も驚いたのは、油の量である。
中くらいの圧力鍋を火にかけて、熱くして、
最初にお玉1杯分の油を入れた。
インド料理は油が多いとは知っていたが、目の前で見ると迫力がある。
因みに、筆者自身は揚げ物を自分では作れないほど、油に慣れてはいない。
それでも手順よく調理は進み、美味しい黄色い豆ごはんができた。
油もご飯と豆に同化していて、油っこさは無かった。
食べ終わって一段落着いた時、アマチュンは言った。
「もし晩御飯食べられないようだったら、メメに言っとかないとだめよ。
メメ作っちゃうから。」
その後、アマチュンは明日の迎えの車について、兄嫁さんに電話をかけた。
もう1泊して、我々と一緒に山を下りる算段だったのだろう。
しかし、明日は村で結婚式があるという。
帰るなら今日だという。
急な展開で、驚くというより、あっけにとられたけれど、
アマチュンとみどりちゃんは急いで荷造りをし、その1~2時間後には山を下りて行った。
メメとの涙ながらのお別れは、昨日記した通りである。
彼らが出発した後、黄色い豆ごはんが消化できていなかった外国人2人は、
メメに夕食はいらぬ旨を伝えた。
「メメの分だけ作ってね。」と。
夕食の準備の時間がやってきた。
その時は寒かったので、我々はストーブのあるところでゆっくりお茶を飲んでいた。
友人が薬草茶のティ―バックを持っており、シェアしてくれた。
部屋の隅には棚が作られていて、食材や食器が並んでいる。
見ていると、メメは小麦粉を容器から出して、少し考えてから練り始めた。
それほど沢山には見えなかったので、きっとメメの分だけだろうと思い、そのまま見ていると、薄いチャパティがどんどん焼かれていく。
『あれ?』
と思ったが、食事はいらないと言ってある。
ストーブでの直火調理が面白くて、嬉し気に見ていたら、あれよあれよというまにダル(豆スープ)までできあがってしまった。
・・・この量は、どう見ても1人分ではない。
おそらく、女性陣がコロドンパへ巡礼に行っている間に、メメは豆を圧力鍋で煮て、下準備をしておいたのだ。
今その豆の半分は、ストーブの上の中華鍋の中でくつくつと煮えている。
メメのダルは、今回の旅行で一番美味しいダルだった。
調理方法はアマチュンの方法とほとんど同じで、先ずお玉1杯分の油をよく熱して、玉ねぎを炒めることから始まる。
僧院の食事で、ときどき油が上に浮いていることがあるのだが、これは出来上がってから口当たりを良くするために入れる油。
最初から調理に使っていれば、出来上がっても分離することはないと、ここで学んだ。
油は多いけれど、油っぽくないダル。
メメがニコニコと、チャパティと一緒に「いいから、いいから。」と勧めてくれる。
生のタマネギと、筆者はメメがすすめてくれた冷たい水まで飲み、暖かいストーブを囲んで3人で食事をした。
こうして、短時間のうちに2食の黄色い食事を頂くことになった。
ここまでは全然ピンチじゃなく、ピンチの原因である。
本当のピンチはこれから始まる。
つづく。
DECHEN
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