台湾のシビックテックコミュニティは愛に溢れている|g0v Summit 2024参加レポート
g0vサミットは、台湾で最大規模のシビックテックのコミュニティイベントです。本記事は、イベントの参加レポートです。
台湾最大級のシビックテックの祭典g0vサミット
g0vサミットでは、世界30カ国からの800名規模の参加があります。
会場は、台湾の国の研究機関であるAcademia Sinicaでの開催でした。
2014年から2年に一回開催されているg0vサミットは、2020年には台南で開催。2022年は開催がなく、今回は4年ぶりの開催でした。
私個人としては、2018年の参加から、6年ぶりの参加でした。
台湾のシビックテックシーンでは、デジタル大臣Audrey Tang氏が5月での退任する、という大きなニュースが報じられたばかりでした。
g0vの中核でもあるvTaiwanでは、彼女が台湾政府への関わりを深めた経緯でもありました。
今年のサミットのテーマは大きく分けて5つでした。
2chならぬ、4chを始めとするネット民が与える政治への影響とデジタルガバナンス。2日目のキーノートスピーカーはThe Rise of Nerd Politicsの著者である、John Postillさんでした。
データ、AI、そしてコミュニティにおけるコラボレーション
政治や技術的な権威に対する、草の根、オープン、ポリセントリック、共同社会的なアプローチ
PluralityはAudrey Tang氏のお言葉でよく出てくる言葉でもありますが、singularity(技術的特異点)の対義語として出てくる、多様性、多元性という言葉です。デジタルにおけるダイバーシティ&インクルージョンも一つのテーマになっています。
テクノロジーと社会課題の着地点
もはや当たり前、だけどやっぱりここがすごいg0v
g0vのここがすごいポイントとして、インクルーシブの取り組みがあります。
特に海外からの参加に優しいです。
様々なステッカーで、言語のサポートをしてもらいやすいです。
メインのセッション会場では、英語<>台湾華語の同時通訳が提供されています。
同時通訳がYoutubeのライブで配信されているので、自身のスマホで音声を聞くことができます。
また日本のアプリであるUDトークさんが、スポンサー協賛していて、リアルタイムで文字起こしされた文章が複数言語に翻訳されていました。
またセッション議事録は、共同編集ができるドキュメントがHackMDというツールで用意されていて、参加者は誰でも編集/閲覧が可能です。
これらのサポートがありながら、参加費無料なのがすごいです。g0vの活動に賛同するスポンサーのサポートを感じます。
印象的だったセッション
2日間にわたり、4会場同時進行で進んでいくので、全ては見きれませんでしたが、特に印象的だったセッション4つをご紹介します。
国を超えた、Disinformationに対するシビックテックプロジェクト、cofatcsの取り組み
セッション名:Challenges of Disinformation in the Era of AI
g0vで作られたCofactsというオープンソースにフォークして、タイで活動しているCOFACT Thailandの活動が印象的でした。
cofactsは、クラウドソーシングによって、事実の真偽を判別するためのシステムで、オープンソースとして公開されています。
タイではSMSでのフィッシング詐欺や、SNSではdisinformation(偽情報)を拡散してしまうことが問題となっています。
COFACT Thailandの活動で、農村でLINEのチャットボットでDisinformationについて学ぶ農家さんの姿が印象的でした。
またイベントでは踊りと歌で注意喚起をしていました。
テックコミュニティではついつい高いリテラシーが前提となっていることが当たり前になっていることも少なくありません。
そんな中、こうした取り組みを見て、改めて市民に浸透するとはこういうことかと、新しい気付きでした。
g0vのcofactsと比較すると、ニュースの真偽を判別するシステムとしての側面よりも、リテラシー教育としての側面のほうが色濃いのがパネルディスカッションの中でも特徴的でした。
同じ課題に対して同様のツールを使っていたとしても、ローカルの実情に合わせて求められる手段に違いがあることが印象的でした。
g0vのプロジェクトリーダーたちのぶっちゃけ会
セッション名:Open Source Culture × Public Issues × Collaboration with Government
g0vから生まれたプロジェクトのプロジェクトリーダーによるパネルディスカッションです。
中には10年近く続いているプロジェクトや、2代目のリーダー方もいらっしゃいました。
パネルでは「オープンソース」、「社会問題」、「政府との協力」の三つの観点で、自身のプロジェクトを振り返ります。
話を聞いているとシビックテックプロジェクト、みんな悩みは一緒だよね、と思いつつ、改めて社会課題の解決への想いが強さを共通して感じました。
課題を解決したいという想いから、プロダクトデモを見せて、行政を巻き込み始めたプロジェクトも、実際にシステムを運用するとなると、開発者も必要だし、お金もかかる。
プロジェクトの資金として政府と契約した金額では、結果的に足りず、リーダー自身のポケットマネーで続けたこともあった、という苦労話もありました。
すべての苦労話が今は解消されているハッピーエンドばかりではないけれど、各プロジェクトリーダーはそれぞれ思いを持って活動を続けていて、
そういった状況をサミットで話すことで協力者を見つける場になっているのだと感じました。
g0vに来る人、去る人
セッション名:Workshop: Why do civic tech contributor come? Why do they stay? Why do they leave?
g0vのような熱い想いのコミュニティメンバーが多いコミュニティでも、一定数去る人もいれば、新しいメンバーの参加が課題になっているということでした。
ワークショップの中で「どうしてg0vに参加したのか」というディスカッションの中で、既存のメンバーから出てきたのが、
「プロジェクトでコミュニティメンバーから学べる素敵な環境」ということでした。
その一方で、「どうして去るのか」というディスカッションの中で出てきたのが、
「スキルを身に着けて、キャリアアップして、本業が忙しくなる」ということ。
本業では出会えない、多様なバックグラウンドを持つ人、高い技術力がある人が一つのキーワードに集まるコミュニティならではだなと思います。
だからこそ、上昇志向の高いメンバーほど、プロジェクトの中で能力を身に付けて、キャリアップしていくというのは仕方がないことだなと気が付かされました。
そんな中、初期のg0vからいるメンバーの発言で印象的だったのが、
「でも、コミュニティに愛があるメンバーは帰ってくる。」
という一言でした。
さらに技術や知識をつけて、強力になって帰ってくる。
そして若手をリードしながら、プロジェクトをまた進めていく人が、そういえばちょこちょこ居るなと思います。
Day1のキーノートでも、コミュニティメンバーの記者のJason Liuさんも、「技術者でもないのにどうしてテックコミュニティに居続けているか」と言うと、
「コミュニティに恋しているから」と。
いたるところでコミュニティへの愛が出てきていて、内心ホントかよと思っていました。
ただ自分自身も振り返ると、コロナ禍をきっかけにコミュニティ活動のお休み期間を経て、戻ってもいいのかな、と思ったきっかけになったのも、
「コミュニティのメンバーのみんな何してるかな。久しぶりに会いたい」という想いからでした。
そして、そうした出戻りも受け入れてくれるのが、オープンソースカルチャーのコミュニティの良いところで、みんなの居場所なんだとつくづく感じました。
海を越えた学生シビックハッカーのつながり
g0vに加えて、韓国のCode for Korea、日本のCode for Japanが共同で運営しているハッカソンイベントのFacing the Oceanに参加した学生からの参加レポートもありました。
2018年のg0vの時点では、2016年に比べて、日本から参加する(大人)が増えた、という話がありました。
2024年の今回は、g0vからスピンオフしたイベントで、国を超えて学生同士がお互いに刺激を与え合うコラボレーションにまでなってきており、大きな変化であると感じました。
イベントが終わっても、g0vのSlackを通じて連絡を取り合っている、というのも素敵だなと思いました。
おわりに:コミュニティは、結局は人の集まり
セッションや、参加者との立ち話でも、いたるところで”コミュニティへの魅力は人”という話がありました。
コミュニティは、人のつながりが切れることがあっても、新しいつながりができて、更に太くなり、紡がれてきた関係性の上に、国境も超えて、ここまで活動が続いて来ているのだとだと気付かされました。
次回のFacing the Oceanは、日本開催で海上は横浜です。
ご紹介した、g0vやCode for Koreaのメンバーも参加予定です。
申し込み、詳細はこちらから