R6予備憲法 再現答案
第1 設問(1)
1:祭事挙行費を予算から支出することは、A町内会の目的範囲外の行為として無効ではないか
(1)A町内会は地方自治法260条の2第1項に基づき設立されており、「その規約に定める目的の範囲内において」権利能力を有する。A町内会規約では、その目的に加えて①ないし⑤を掲げているが、祭事挙行費はこのいずれにも当たらない。そのため目的外行為として無効ではないかというのが問題となるのである。
(2)ア:この点、八幡製鉄事件では、当該事項が社会的に要請・期待されるものである場合、それに応えることは当然為しうるのであり、企業の円滑な発展にも相当程度の効果があるとされることから、目的達成のために間接的に必要な行為であっても目的の範囲内であると示し、客観抽象的に判断すべきであると判示した。
イ:A町内会とは地方自治法260条の2に基づいて成立するのに対し、八幡製鉄事件では株式会社であるため根拠法令は法人法であるから、成立の根拠法令につき両者は全く異なるものである。また、株式会社とは法人という私的団体であるのに対して、A町内会とは地域的な共同生活を円滑に行うためのもの(地方自治法260条の2第1項)ものであり、公共的な目的を有する団体である。そのため両者の性格も同一とは言えない。したがって本事案に八幡製鉄事件の射程は及ばないと思える
ウ:しかし、A町内会とは「地縁による団体」が市町村の許可を受けて成立するのであるから、設立自体は私人の任意に基づいてなされていると言えるため、この点で株式会社と共通する。また、団体の意思決定につき、A町内会では構成員による総会によってなされる一方で、株式会社は構成員たる株主の総会によってなされるからこの点でも両社は共通する。そのため、かかる共通点から本事案には八幡製鉄事件の射程が及ぶというべきである。
(3)これに対し、A町内会とは上記公共的目的を有すること、及び現在の加入率は100%であるため、事実上脱退の自由がない強制加入団体であるため、八幡製鉄事件ではなく、南九州税理士会事件の射程が及ぶべきであるという見解もありえる。
しかし、南九州税理士会事件では、強制加入団体と導き出せる根拠法令が存在していたが、本事案ではそのような規定は地方自治法には存在しないといえるため、A町内会を強制加入団体というべきではない。また、確かにA町内会には公共的性格もあるが、それはあくまでもA集落という特定限定の範囲であるのに対し、税理士会のそれは不特定多数広範囲であるから公共性の程度は税理士会よりも大きく後退していると言える。
そのため、両団体は性質が大きく異なり、南九州税理士会の射程を及ぼすべきではない。
(4)以上より、本件では八幡製鉄事件に従って目的の範囲内かを検討すべきである。
ア:A町内会においては、年に二回C神社において祭りがなされており、かかる祭りでは集落に伝えられてきた文化である伝統舞踊が披露されていた。そのため、A町内会C神社においてなされる祭りは、A集落の伝統を構成に承継するとともに、地域の人々の交流の機会となっており、A集落において重要な意義を有していたと言える。そのため、祭りを開催することはA集落において社会的に期待・要請されていたものといえる。
イ:そして、祭りを開催するにも費用が掛かるのだから、祭事挙行費の確保は必要不可欠な者であったと言える
ウ:以上を踏まえると、祭事挙行費の確保は、地域的な共同生活に資するという目的の達成のために間接的に必要(⑤)な事項であったと認められるから、A町内会の目的の範囲内の行為である。
2:したがって、祭事挙行費の町内会の予算からの支出は目的の範囲内の行為でありこの点で問題は無い
第2 設問(2)
1:町内会費8000円を一律に徴収することは政教分離(憲法20条1項、3項前段、89条後段)に該当し違憲ではないか
(1)政教分離とは国家の非宗教性または宗教的中立性を意味し、国家と宗教のつながりを禁止することで、間接的に個人の信教の自由を保障しようとする点にある。そのため憲法は国家と宗教の完全な分離を理想としている。
尤も、宗教は極めて多方面において社会的接触を有するものであるため、かかる社会的接触を通じて国家と宗教がつながりを持つことは避けられない。また一切のつながりを禁止すると、国家が援助することができず福祉主義(25条)の観点から妥当ではないだけでなく、かえって個人の信教の自由の保障を困難とさえするおそれもあり妥当ではない。
そこで、国家と宗教のつながりは、我が国の社会的文化的条件等に照らして相当と認めらえる限度であれば、政教分離に反しないと解する。相当と認められる限度については、当該宗教的施設の性格、当該行為の経緯、当該行為の態様、これらに対する一般人の評価等を総合考慮して判断すべきと解する。
(2)C神社は集落の氏神を祭っており、また御神体を安置した集会所も建設されているから神社という宗教施設としての外観を備えている。
しかし、C神社は宗教法人ではなく、氏子名簿も存在しない。そして、C神社を管理しているのはA町内会という任意の者たちによって結成された団体であるところ、A町内会は生活道路・下水道の清掃、ごみ収集所の管理といった、宗教活動とは無関係な世俗的な活動を多く行っていた。また、神道は一般的に、日常的に対外的な宗教活動をほとんどしていないところ、C神社においてもそのような活動をしていたとはうかがわれない。
加えて、C神社には神職が常駐しておらず、年二回の祭りの差異に他所から派遣される程度であった。また、A町内会集会所と並べてC神社と表示されているものの、そこでは平素から人々の交流や憩いの場となっていた。
以上より、C神社とは極めて宗教的性格が希薄である一方で世俗的性格を強く有していたと言える。
(3)祭事挙行費を予算から支出するにつき町内会費8000円を一律に徴収する経緯は、祭事挙行にある。C神社においてなされる祭りは上記の通りA集落において重要な意義を持っていて、継続は社会的に期待されていたといえる。しかし、祭事開催にも、費用がかかるところ、A集落は人口170人、世帯数50戸程度の極めて小さな集落であったため、資金調達の方法が殆どなく、祭事開催のためには構成員から徴収するしか他に方法が無かったと言える。
そのため、当該行為の経緯につき、社会的背景に照らして必要性があったと言える
(4)また、徴収額は世帯当たり年額8000円と決して低いとは言えないかもしれないが、そのうち祭事挙行費は世帯当たりわずか1000円と軽微なものであったし、その割合も12.5%と決して高い物とは言えない
(5)また、A町内会は公共団体の一部とは解されない(地方自治法260条の2第6項)。以上を踏まえると一般人からして町内会費8000円を徴収したとしても公権力がA町内会に特別の便宜の獲得を認めたと評価されるとは言えない
2従って、本件では相当程度のつながりにとどまり政教分離に反しない