(第28回) ジャンクションにダム萌え。コンクリートはおもしろい!
ある取材で大阪に出向くこととなり、阪神高速道路「阿波座ジャンクション」の真下で待ち合わせをした。ここで待ち合わせすることに意味があるのだという。その人は「ジャンクション萌え」の第一人者だ。ここ「阿波座ジャンクション」は、東京の箱崎ジャンクションとならび、ジャンクション界の西の横綱と称されている場所である。
頭上には幾筋ものループが、まるで雄叫びを上げるかのように迫っている。ただ、大きな建造物を前にし、多くのことを体感できるのだけれど、それがとりとめもなさすぎていささか不安になる。
大阪、ジャンクション萌えの聖地「阿波座ジャンクション」
その第一人者氏によると、ジャンクションの楽しみ方は大きく分けてみっつあるという。
まずひとつめは、下から見上げ写真に収めること。超広角レンズや 長時間露光を駆使しながら「萌える」写真を目指す。
ふたつめは市販の地図やグーグル・マップを使って、俯瞰から味わう。上から見ると、幾何学的な模様や結び目のようなデザインがとてもおもしろい。
そして、みっつめ。幾重にも折り重なる道路が、どんな仕組みになりながら複雑な構造を保っているのか。いくつもの方向から撮られた写真を収集しながら細部を想像し、頭のなかで像を結んでいく。実際のジャンクションの縮小模型を作ったりペーパークラフトに投影したりして楽しむマニアもいる。
ジャンクションを愛でるなんてことができるのだろうか。最初はそう思っていた。だが、なんのことはない。小さい頃、畳のへりやテーブルの上を這いずり回らせたプラレールとミニカーの世界だ。そう思った瞬間、一気に愛らしいものになった。
高速ジャンクションだけではない。近年、ダム、高速道路、団地、工場といったインフラ(都市施設)に目が向けられている。一眼レフ片手にダムを愛でる女子たち、昭和の古ぼけた団地を訪れる若人、工場の夜景を肴に土木技術を語り合う人々。いま、ニッポン各地に「インフラ萌え」の人々がじわじわと増殖中であるという。
このようなインフラに対する一般の人々の関心を見逃す手はない。近年、国(国土交通省総合政策局)や一部民間団体が旗振り役となり、全国各地のインフラを活用する動きが盛り上がりを見せている。ダムや橋梁、水利施設、港湾など、国や地方自治体が管理・建設中の「物件」を提案し、民間旅行会社によるイベントツアーが立案・実行されている。
まだまだ実験的な試みではあるが、なかなかおもしろそうなものもある。建築中の港の見学(仙台塩釜港)や砂防堰堤(えんてい)の見学に温泉を加えたプラン(秋田・八幡平山系)など、いままで観光資源になるとは思いもよらなかったインフラがいくつもリストアップされている。
黒部ダムの雄姿
「たかがコンクリート」。たしかに巨大で無骨ではあるけれど、そこには鑑賞する側の「見方」が存在し、その見方に沿った機会を提供する。見る人にとって価値のある案内にはそれ相応の対価が生まれる。ビジネスとしてのインフラツーリズムの可能性である。
取材の最後に、昔からその筋では有名な「TKPゲートタワービル」に行った。
大阪・梅田からのんびりと歩く。このビルの5階から7階部分を阪神高速道路11号池田線が貫通している。1980年代、ビルと高速道路の建築計画がバッティングし、長引いた交渉の結果、阪神高速がテナントして入居するかたちで決着したらしい。海外メディアなどでも頻繁に取り上げられ、インフラマニアの訪れる隠れた観光スポットとして知られている。
大阪の有名インフラ萌えポイント「TKPゲートタワービル」
腹部にズッポリと高速道路が貫通する
なんだが、土木がおもしろい。土木には技術も詰まっているし物語もある。自然の景色や歴史上の遺跡もいいけれど、何気ないコンクリートもじゅうぶんにたのしい観光地になる。
土木の英語は「シビル・エンジニアリング(市民の工学技術)」だ。
ともに歩み、いつもいっしょにいたわれわれだからこそできる土木の魅力の再発見。今後どこまで発展するのか、興味深いテーマだ。
〜2019年10月発行『地域人』(大正大学出版会)に掲載したコラムを改訂
箱崎ジャンクションは、ジャンクション界の「東の横綱」