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(第3回)冬の増毛に「舟歌」が聴こえる」

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 JR北海道が、留萌本線の留萌(北海道留萌市)~増毛(増毛町)間(16・7km)の路線を廃止することを発表した。同区間は12月4日限りで運行を終了する。

 留萌本線は、深川~留萌~増毛間を結ぶ全66・8kmの鉄道路線である。このうち海沿いの区間にあたる留萌(るもい)~増毛間は利用者が極端に少なく、平成26年度の1キロ当たりの1日平均利用者数が39人となっていた。1列車の乗客換算ではたった3人。さすがに持ちこたえられなかったということだろう。

 地方の衰退をことさら強調してもあまり意味はない。だがやはり、この路線が消え、増毛駅が姿を消すのはなんとも惜しい。

 映画『駅~STATION』(監督・降旗康男、脚本・倉本聰)は、1981年に封切られた。高倉健演じる、ある刑事の周辺に起こった、女と事件にまつわるオムニバス形式の物語だ。

 この映画の舞台になったのが増毛駅である。増毛は小さな離島・雄冬への連絡船が出る静かな町だ。実際の増毛駅周辺でロケが行われ、駅前の食堂が「風街食堂」と名を変え、映画の重要な舞台となり、以降も多くのファンを引きつけてきた。

 この映画には、なんともいえない、いいシーンがある。

 それは大晦日のことだ。北海道の雄冬にある実家に帰ろうと増毛駅に降り立った主人公・高倉健は、悪天候のため連絡船が出航せず、町で足止めを食らう。行き場をなくした彼は、増毛の町はずれでひっそりと営業している小料理屋にふらりと入る。そこにいたのが、どこか寂しげな生き様を漂わせる女将、倍賞千恵子である。

 ほかの客は誰もいない。どこか気持ちが通じ合ったふたりは、店の小さなテレビで年末の紅白歌合戦を観る。流れてくるのは、『舟唄』(八代亜紀)である。

 「お酒はぬるめの燗がいい。肴は炙ったイカでいい」。

 倍賞千恵子が少しかすれた声で静かにこの曲を口ずさむ。高倉健は静かに酒を飲んでいる。この歌の抑揚に合わせるかのように、彼らのほのかで複雑な恋心は深まっていく。

 この「舟唄」は、とくに物語の背景や舞台を明示していない。そういう意味ではご当地ソングとは言えない。だが、ここ増毛地区を舞台に流れた「舟唄」が、強烈な印象を残した。

 寒い季節、古びた小料理屋で簡単な肴をつまみながら熱燗を啜る。そんなときには、「舟唄」が合う。それは全国どこでもあり得る話だけど、聞き手のイメージのなかでは、ここ増毛のような、少し「盛りの過ぎた」北の土地が似合うようになった。

 かつて、留萠本線は賑わいを見せていた。羽幌炭鉱が稼働し、町には人々が集い、映画館があり、クルマが行き交い、電車も多くの人が乗った。

 昭和42 年の留萌市の人口は、約4万2500人 だった。その頃から少しずつ減少し始め、映画が撮影された頃には、約3万5000人。現在は約2万2000人である。漁業の盛んな増毛町も、ピーク時の約1万1000人から、現在は約4700人まで減っている。

 映画『駅~STATION』のなかでは、元旦未明の増毛神社の様子が描かれ、留萠本線に初詣列車が走っている。

 「沖の鴎に 深酒させてヨ いとしあの娘とヨ 朝寝する ダンチョネ」。

 増毛の地名はアイヌ語の「マシュケ」(鴎が多い場所)に由来している。ぜひ、冬の寒い日に行ってみたい場所だ。

〜2016年11月発行『地域人』(大正大学出版会)に掲載したコラムを改訂

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