「男はイカ臭くあれ」〜書籍『男気大飯店』より
「はんぱじゃねえ、マブい味」。下板橋の愚連隊出身特級シェフが
渾身の技術とともに見せる「ココロの中華」を食卓に。
小学生的笑いと中年のペーソスとともに解説する女に食わせる男の中華。
青年が、オヤジが、そして、男がココロから洗われる会心の料理術。
電子書籍たまらんブックス『男気中華飯店〜外苑前の熱烈中華・シャンウェイの秘密』特別キャンペーン
料理監修・佐々木孝昌(青山シャンウェイ・シェフ)
イラスト・渡辺コージ
昔、男女で宴会をやっているときに、ある若い美人女子が、「わたしは回転寿司のイカが大好きで、連続で5皿ぐらい食べる」と言ったところ、男を中心とする場内からうなり声のようなどよめきが起きた。
イカにはエロスがある。そのことを悟った瞬間から、わたしはイカを研究することを決めた。イカの生態、種類、素材、見た目などにこだわり、ことあるごとに妄想してみた。イカでああいうものがつくれないか、イカをこういうふうにしたらかっこいいとか。
そして、先日、佐賀の呼子でやっている「イカ検定」なるものにわざわざ飛行機で乗り込み、とりあえず合格した。だが、そんなわたしがまったくやっていないことに気がついたもの、それはイカの料理だった。
はじまりはいつもイカ。やや淡泊で低カロリーなイカを前戯としてゴージャスなプレイへと入る。これはわたしの食事の際の流儀であり、また、ここ青山シャンウェイでの前菜の定番でもある。
「イカ臭い」という言葉がある。「イカ臭さ」とは、イカのアンモニア臭やそこから連想される股間の残尿臭のことを指しているのではないかというへんに「具体的」な講釈もあるが、そんなことよりも、もっと抽象的な「オス感」あるいは「今したばっかり感」、そんな感じが漂う人に贈られる立派な称号だと思う。
要するに現役感バリバリ、スタンバってる男の象徴が、このイカ臭くさの正体なのである。だから、闘う男は常にイカ臭くなきゃいけない。
シェフ・タカマサは言う。「イカに真剣な女は、すべてに真剣だ。なぜなら、一見淡泊に感じるイカの味、食感、光沢など、そのすべてを味わい尽くすには、研ぎ澄まされた繊細な感性が要求されるからだ。それは、仕事でも恋愛でも同じだ。感度のいい女はちゃんとわかる」。
そう、女はイカを待っているのだ。
イカはタウリンを含んでいるので血中コレステロールを下げるなど生活習慣病にもいいし、何よりも低脂肪で良質のタンパク質が豊富なのでダイエットに最適である。そういう意味でも女子にはよろこばれるのだ。
さあ、いそいそとイカ料理をつくろう。しかも、簡単にスマートに、だ。
シェフ・タカマサは言う。
「イカは斜め45度に切る。そう、ツッパリのグラサンの角度だ。軽く湯通しした後、ネギ油をまぶす。味は塩だけだ。彩りは刻みネギを散らすぐらいでいい。イカの切り身の端に少し切れ目を入れると食感がさらによくなる。やわらかさ、塩気、脂を演出しろ。軽く、軽く。これから待っている味の饗宴を予感させろ。まさに、中華の前戯だ」