SmartHRで「俺の入社手続き」を開催しました

こんにちは。アクセシビリティエンジニアの辻勝利です。
これまで「俺の雇用契約」と「俺の年末調整」について記事を公開したところで、9月に実施した社内イベントのご紹介ができていなかったことに気づきました。
ご報告が前後してしまいましたが、今回は、入社直後の9月16日に実施した最初のイベント、「俺の入社手続き」を振り返ってみようと思います。

そもそも「俺の」って?

「俺の」シリーズは、視覚障害の当事者(全盲)であり、光学ディスプレイを通した視覚情報に頼らずに普段の業務を行っている僕が、視覚障害者が自分たちの製品を使っている様子を見てみたいと考えている社内の方に向けて、スクリーン・リーダーを使ってSmartHRの機能を利用する様子を見てもらうことで、アクセシビリティ向上がどのように利用者にとって有益なのかを知っていただくきっかけにしたいと思って始めたマンスリーイベントです。


9月から毎月1回、同僚のおうじさん、ますぴーさんといっしょにお昼の時間にラジオ感覚で気軽に楽しんでいただけるように配信しています。

「視覚情報を使わずにウェブを操作するってどういうこと?」といった疑問はもちろん、今後のインクルーシブな製品開発のヒントについてもお答えできるようなカジュアルなイベントを目指しており、少しずつでもSmartHR全社のアクセシビリティへの配慮・理解を深め、多くの人を助ける製品提供ができるような会社作りを目指しています。


イベントではZoomを使って僕のPCの画面とスクリーン・リーダーの読み上げ音声を共有してデモを行っています。
スクリーン・リーダーが読み上げた内容はNVDAのスピーチビューアーに表示させたテキストをみてもらっているので、僕も気兼ねなく普段通りの読み上げ速度でデモを行っています。


デモで気になった点や質問はSlackのスレッドに書き込んでもらい、おうじさんやますぴーさんに気になるものをピックアップしてもらってお答えしながら約1時間のイベントを進めています。
製品開発に関わっている人だけでなく、社内の様々な職種の方が参加してくれていて、SmartHRをより多くの人に届けたいという皆さんの熱量を感じることができるイベントです。


なぜこのイベントを始めたのか

僕がSmartHRに入社してすぐに、週に一度の1on1が開始されました。
そのなかで、多くの人たちがリモート環境で仕事をしている時期だからこそ、定期的に僕がスクリーン・リーダーを使っている様子を見てもらうようなイベントが実施できそうと提案して実現したのがこの「俺の」シリーズです。


オフィスでイベントを実施する場合、複数の参加者が入れる会議室を準備したり、普段は使用していないプロジェクターにPCを接続した場合のスクリーン・リーダーの動きを事前に確認したりと準備が必要ですが、オンラインであれば手軽にイベントを実施できるため、早速やってみようと言うことになりました。


せっかくデモをするのであればSmartHRの手続きを題材にすることで、参加者がそこでみつかった問題をより身近なこととして認識し、アクセシビリティ上の問題の改善につなげられればいいなと考えており、1回目は「入社手続き」を取り上げることにしました。


今回の検証環境

Zoomを使って僕の画面を共有し、以下のような環境でデモを行いました。


Windows 10 Pro 2021
NVDA 2021.2jp
Chrome 95.0.4638.69


※それぞれのリンク先からは更新バージョンが入手できるかもしれません


みつかった問題点

SmartHRを使った入社手続きは、僕が実際に入社の時に一通り試してみた時に大きな問題はなかったのですが、改めて気になる点をいくつか指摘しました。


まず、入社手続きのページには複数のカテゴリがあるにもかかわらず、それぞれのカテゴリの区切りがわかるような見出しがほとんどありませんでした。
自分自身に関する情報、家族に関する情報、通勤経路に関する情報など、カテゴリーごとに簡単に移動できるような見出しがあるとより手続きがしやすくなることをお伝えしました。


次に、生年月日を入力する部分のカレンダーが閉じられない問題を指摘しました。

生年月日の入力後に次の項目に移動したい場合、表示されているカレンダーを読み終えなければ次の項目に移動できないため、スクリーン・リーダーの利用者にとっては操作が煩雑になることをお伝えし、カレンダーが必要ないときに簡単に閉じられる仕組みがほしいとお話ししました。


もう一つ、入力例の読み上げ順序についてもお話ししました。
例えば郵便番号や電話番号など、入力する項目のラベルが読まれた後にテキストフィールドがあり、その入力が終わった後で入力例があることに初めて気がつくような読まれ方をします。

例えば郵便番号を入力するフィールドのところで「1234567」と入力した後に「例: 123-4567」というハイフンを含んだ例が読み上げられるような感じです。

入力例と同じように入力しないと、フォームの送信時にエラーになってしまうこともあるので、このような場合には前に戻って「1234567」というテキストを「123-4567」に修正する手間が発生してしまいます。
もしも入力例が先に読み上げられれば、このような修正の手間が減らせる可能性があることから、入力例の読み上げられる順番が変更されるとありがたいことをお伝えしました。


入社手続きはできたのか?

一部の項目を省略して送信してしまったのですが、エラーが出ることもなく無事に入社手続きを完了することができました。


今回SmartHRで初めてスクリーン・リーダーを使ったデモを実施したので、スクリーン・リーダーの音声を初めて聞いた方も少なくなかったようです。
Slackのスレッドにはたくさんのコメントが寄せられ、皆さんが興味を持って参加してくれていることが実感できました。


最後に、当日いただいた質問のいくつかをご紹介します。


そもそもスクリーン・リーダーはどうやって起動するの?

スクリーン・リーダーの多くはショートカットキーで起動します。
例えば僕が使っているNVDAは、初期状態ではCtrl+Alt+Nを押すことで起動できます。

また、Mac OSのVoiceOverはCommand+F5かで起動できます。


漢字はどうやって入力するの?

スクリーン・リーダーには漢字の詳細を確認する機能があります。
例えば、「飴」は「あめだまの、あめ」のように読まれるので、「雨」と区別することができます。
「雨」は「あめがふるの、あめ」と読まれます。


今回のデモの操作は普段の操作よりも遅かったの?

次に何をしようとしているのかを声に出しながら進めているため普段一人で操作しているときよりも若干遅くはなりましたが、ほとんど普段通りに操作することができました。


今回びっくりしたのは、デモを始めるときに「音声の読み上げ速度をもっと遅くしましょうか?」と確認したところ、普段通りの速度で続けてかまわないというコメントが多かったこと。


これまでやってきたユーザーテストでは、参加者ができるだけ聞き取りやすいように、スクリーンリーダーの読み上げ速度を遅くしてほしいという要望をもらうことが多かったので、実はそれが結構ストレスでした。
普段自分が聞いている速度よりも遅い読み上げ音声を聞きながら作業すると、探している情報にたどり着くまでにいつもよりも時間がかかることが気になって作業に集中できなかったのです。


音声で読み上げた内容と同じテキストをNVDAのスピーチビューアーに表示させることで、それを画面上で見ていただきながら、僕は通常使用している読み上げ速度でデモを進めることができたので、だいぶ楽な環境でデモができました。


イベント中はSlackのスレッドの動きを確認することができなかったのですが、後で500件以上のコメントが寄せられていたことに気がつきました。
ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。

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