夏至の夜は星野道夫を思い出す。
6月21日木曜日は北半球で最も昼間が長い一日だ。そう、夏至である。夏至の日の夜といえば、いつも星野道夫さんのことを思い出す。
私は星野さんが語る、アラスカでのこのエピソードがなんだかとても好きなのだ。
夏至の頃の人々の気持ちを説明するときによくこの話をするのですが、あるとき韓国の野球のオリンピックチームが練習試合のためにフェアバンクスに来たことがありました。僕の住んでいるフェアバンクス社会人チームは全国的にも強いチームなので試合をすることになったんですが、その試合の日がちょうど夏至の日でした。
アラスカでは、夏至の日の野球はどんなに暗くなっても球場のライトをつけないで試合をやるという決まりがあるんですね。それはお祭りのように夏至を祝うという意味が一つあるんですが、だいたい夏至の日はほとんど暗くならないので、ライトをつけなくても試合ができてしまうんです。ところが、その日に限って天候が崩れてしまい、ほんとうに暗くなってしまったんです。最初試合がはじまった頃には球が見えていたんですけど、だんだん回が進んでいくにつれてボールがよく見えなくなっていく。それで韓国のチームから、球場の明かりをつけてくれというクレームがあったんですが、フェアバンクスのチームは夏至の決まりだからということで拒否したんですね。そのうちライトをつけないと球を追えなくなるくらい暗くなってしまって、とうとう試合が終わる前に韓国の野球チームが怒って帰ってしまったんです。でも、観客はだれも文句を言いませんでした。(星野道夫『魔法の言葉 自然と旅を語る』より)
長くて深い冬を過ごさなければならないアラスカの人々にとって、太陽の光はとても大切な存在だ。だからこそ夏至は彼らにとってそれほどまでに特別な一日なのだ。
夏至がもっとも喜ばしい日である一方で、その翌日からは日が短くなっていく。夏至は6月下旬で、夏はまだ先だというのに、アラスカの人々には次の冬の到来が予感されて何となく淋しい気がするという。
その反面、冬至の日はこれから1月、2月と最も寒い季節が待っているわけだが、日照時間が伸びていくのですでに春を予感し始めるという。
なんとも人間らしい感覚だ。
天気が良ければ気分が良くて、寒くなったらちぢこまる。
毎日忙しく仕事に追われていると、いつの間にかそんな素朴な感性を忘れてしまう。だから、夏至の夜に星野さんの本を読んでは、私の感覚を取り戻そうとする。