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赤ひげ先生13

人の皮膚は呼吸や発汗などの生理機能を果たしながら外界のばい菌から体を守ってくれるという素晴らしいバリアらしい。
ところが免疫力が落ちると怪我がなくても菌が侵入して炎症を起こすのが蜂窩織炎だ。

時を前後するが、足の脛にひどい炎症を起こした若い患者さんが二人入院してきたことがあった。
これはなかなか侮れない疾患で、手遅れで菌が体にまわると敗血症を起こして死んでしまうので、そうなると足を切断するしか無くなることもあるらしかった。
赤ひげ先生は膝から下の赤黒く腫れ上がった脛を縦20〜30センチに2箇所ほど切開して、傷口から膿みを出す治療をした。
抗生剤を点滴しながら一日2.3回、縫合せず解放したままの傷口から膿みを吸収させたガーゼを交換するというのは、赤ひげ夜戦病院の面目躍如といったところだった。

その匂いに我慢できないという看護師さんの代わりに、何度か足を持ち上げる介助をやった。
私はその匂いよりも、開いた傷口にガーゼを詰めこまれても顔色一つ変えない患者さんに、炎症の痛みで紛れているのかとびっくりしてしまった。 
やかて膿みを出し切ると徐々に肉芽が盛り上がって自然に傷口は塞がれる。 
目立つ傷跡と、そして何より足は残った。
「そこらの病院だったら切断されてたぞ」なんて赤ひげは得意げに言ってたが、敗血症のリスクをとって二人の足を守ったのは確かだった。
男女の患者さん二人の共通点といえば、どちらも体重過多だったと思う。 おそらくカロリーオーバーで栄養面のバランスが悪かったのかもしれない。 そして男性患者さんはうつだった。

ある日病室に男性の姿が無いのでみんなで探していたら、3階の方で赤ひげの大声が響いた。
「何をやってるんだ ‼︎ 」
3階ベランダの柵を乗り越えて飛び降りようとしているのを取り押さられた男性は、病室に戻されて安定剤を注射された。
しばらくみんなで監視を怠らず、無事退院していった時はみんなほっとした。
それからは三階のベランダに通じる外階段には鍵が付いた。


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