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マリア様はご機嫌ナナメ 33 どんな未来

 僕たちの大学三年間はこんな感じで終わり、僕たちは四年生になった。
 思えば貧乏な僕を大阪の本屋のカズオさん、タカオさん、そして高校の恩師、松本先生が学資と東京での生活費を奨学金として援助してくれた。ラジオ局の浅田さんも応援してくれて、マリアもピアノの講師のバイトをやってくれた。
 マリアと一緒に暮らしてもう三年になる。帝塚山育ちのお嬢さんだったマリアも風呂無し、クーラー無しの木造アパートで慣れない家事をやりながら僕と一緒に三年間を走り抜けた。マリアと初めて会ってから六年になる。最初はおっかない女で、強引で、向こう見ずの女だったけど、彼女もすっかり大人の女性に成長していた。
 大学の方は単位も順調にとれて、四年生はゼミと卒業論文だけになった。

 ラジオ局のバイトも順調だ。
麗子さんとマリアの番組も安定したレイティングをとっている。
浅田さんも仕事の大半を僕に任せてくれて、エーディ―の青田君と一緒に番組を作っている。
「お~い青田ちゃん!」と呼ぶ僕の呼び方が浅田さんに似てきたとマリアは僕をからかう。

 いつものように生放送を終えて、僕は浅田さん、麗子さん、マリアと反省会をやっていた時だった、
「う!」
と言ってマリアが両手で顔を覆い倒れた。

 倒れ込んだまま、マリアは気を失った。僕はマリアを抱きかかえてマリアをだきしめた。
 浅田さんが守衛室へ電話して救急車を手配した。 
 救急車の中でマリアは二度吐いた。築地にある大きな病院に運ばれたマリア。浅田さんと麗子さんもタクシーで駆けつけた。
 マリアは病室で眠っていた。ドクターが僕を呼んだ。

 「新堂さん、おめでとう。マリアさんは妊娠しています」
 僕は言葉を失った。新しいい命がマリアのお腹の中で息づいている。僕はマリアを愛している。高校二年の時、海で溺れたマリアを人工呼吸下のをきっかけに、一方的にマリアは恋人宣言をして皆を驚かせ、三年前に新幹線い飛び乗って東京に付いてきた。
 毒舌で、思い立ったらすぐ走り出す。それでいて、時に可愛いい顔で僕をいたずらっぽく見る。三年間で料理も上手くなった。

 浅田さんと麗子さんにマリアの妊娠を話した。浅田さんは僕の肩を叩き、麗子さんは僕の手を握って祝福してくれた。僕は大阪のヒナコのママに電話してマリアの妊娠を報告した。
 「すぐにそっちに行くわね」
ヒナコのママはそう言って翌日の昼にはヒナコと一緒に築地の病院に到着した。
目を醒ましていたマリアは皆を見て驚いた。
 「どうしたの、みんな」
マリアはあっけにとられて僕に聞いた。

 「新しい命がマリアの中で誕生したんだ」
 浅田さん、麗子さん、ヒナコのママ、ヒナコが拍手してマリアを祝福した。

 マリアは大事をとって三日ほど入院することになった。病院は完全看護だけど、目が覚めた時に誰もいないと淋しいからと、ヒナコのママとヒナコが看病した。浅田さんは二人の為に日比谷の高級ホテルをとってくれた。僕も出来る限り病院に通った。

 ラジオ局に休みはないので、僕は戸越のアパート、病院、ラジオ局の三角形を毎日行ったり来たりした。

 「進堂ちゃん、ちょっと」
浅田さんは局の近くの喫茶店い僕を連れて行って話し始めた。
 「このあいだの話はどう」
その話とは、僕が卒業したら正社員としてラジオ局に入社してはどうかという話だ。
 これは僕の悩みと一つだった。このまま東京で就職するのか、大阪へ帰るのか。大阪には母がいる。今もパートの仕事をしながら暮らしている。まだ元気だが、いずれ老いが来る。その時母と一緒に暮らしたい。もちろんマリアも一緒だ。
 僕の希望というか我儘をみんな訊いてくれた。だから、そろそろ恩返しをしなければならない。
 結局、僕は浅田さんの申し出を辞退して大阪へ帰ることにした。就職戦線には出遅れたので大阪へ行ってから職探しを始めなければならない。
 そろそろマリアを彼女の故郷へ返してそこで新しい命を生んで貰いたかった。

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