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マリア様はご機嫌ナナメ 1
ヒナコとマリアは小学校からの友だちで僕が二人と知り合ったのが高校一年生の時だった。その時から僕たち三人は他愛のない話をするような仲になった。
丸い顔にちょっとくせ毛、背の低いヒナコ。細い顔でストレートの長い髪、背の高いマリア。そして、ごく平凡な男子高校生の僕。三人は笑ったり、怒ったり、泣いたりしながらもう取り戻せない日々を過ごしてきた。
ブラインド越しに入る日差、初夏の日の午後、流れるのはマリアが奏でるピアノ、頬杖をつきながらそれを聴くヒナコ。
僕はといえば、雑誌のページを繰りながら時々遠くを見る。
外を走る路面電車が鳴らす「チンチン」という音が遠ざかっていく。
この物語を始める前に物語の舞台となる帝塚山(てづかやま)を少し紹介しておこう。
帝塚山は大阪市阿倍野区の南部から住吉区の北西部にわたる地域で、大阪屈指の高級中宅街である。関東では田園調布や渋谷の松濤が有名で、関西では兵庫県芦屋市の六麓荘が有名だ。帝塚山も負けてはいない。
帝塚山の名前の由来はこの地にある帝塚山古墳によるものだという。この地は上町大地と呼ばれる小高い丘陵地になっている。麓のほうには紀州街道と呼ばれる住吉神社に続く古い街道が通っていてそこを南海電鉄の阪堺線という路面電車が走っている。また丘陵地の上を南北に走る熊野街道、そしてその道を走る路面電車の南海電鉄阪堺線の上町線が走っている。
下の紀州街道と南港通が交わる「塚西」の交差点を渡り、南港通の右の坂道を上っていくとそこに帝塚山古墳がある。見た目は単なる小高い丘で木が鬱蒼と茂っている。ただ周りは鉄製の柵で覆われていて、いかめしい宮内庁の「立ち入り禁止」の注意書きが貼られていた。
古墳を抜けて曲がった坂道を抜けるとそこにはこの物語の舞台となる帝塚山があった。そして、この地を象徴するような上流階級の女子を教育する女学校があった。